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やっと話が動き出す第二話。
前回は冒頭部分がなければ何の話だホントにミステリかという感じでした(笑)。
こっから、ちゃんと(?)ミステリになります。
殺人事件が起こるので、必然死体が出ますが、描写はさらっとで済ませています。残酷だったりグロい描写はない・・・・・・と思うが私基準なので言い切れない。
だいぶ遅くなりましたが、それは私が体調を崩しまくったせいです。
「一国傾城編」が終わるまでには全部上げてる予定だったのにな・・・・・・。
前回は冒頭部分がなければ何の話だホントにミステリかという感じでした(笑)。
こっから、ちゃんと(?)ミステリになります。
殺人事件が起こるので、必然死体が出ますが、描写はさらっとで済ませています。残酷だったりグロい描写はない・・・・・・と思うが私基準なので言い切れない。
だいぶ遅くなりましたが、それは私が体調を崩しまくったせいです。
「一国傾城編」が終わるまでには全部上げてる予定だったのにな・・・・・・。
「――銀時。ここまでで良い」
吉原行きエレベーターが見えてきた所で、月詠が足を止めた。一歩多く進んだ銀時が振り返る。
結局ここまで特に問題はなかった。
やはり取り越し苦労だったらしいと月詠は嘆息し、銀時に万事屋に帰るよう勧めた。
「・・・家に帰るまでが花火大会だぞ」
まだ油断禁物だというのは判っているが。
「そこのエレベーターに乗ってしまえば、もう吉原じゃ」
ホームグラウンドなら多少話は変わる。自分の顔を見て死神太夫だと気付く者もいるだろうし、何かあれば部下に声をかけることも出来る。
「ぬしは神楽と晴太の為に、早く帰りなんし。明日は早いのじゃろう?」
道すがら銀時は何度か欠伸をしていた。寝不足かと問うと、花火大会の為に昼夜問わず働いていたらしい。
「屋台が並んでても、先立つモノがなけりゃ指咥えて見てるだけになっちまうからな」と答えた銀時はふわああと大欠伸をした。
「早く帰って眠らないと、また明日も睡眠不足じゃぞ」
銀時は月詠の顔を見た。
同行拒否をされたから、それに反対してまで送る必要はないだろう。まあやっぱり何事もなさそうだし、とこれまでを振り返って思う。月詠が指摘するように、早く寝たいのも事実だ。
「じゃあ俺ァ帰るわ。日輪によろしく」
「ああ。すまんが晴太を頼む」
月詠が背中に声をかけると、銀時は振り返らずひらりと片手を振って見せた。
しばし遠ざかっていく背中を見つめた後、月詠はエレベーターに向かって歩き出した。丁度下から上がってきた所で、扉が開き、中の人たちが一斉に降りて来た。
その人々をぼんやり見ていた月詠は突然目の色を変えた。
あ奴は。
目立ちにくく黒い服を着、俯いて足早に歩いていくあの男。一瞬ちらと見えた顔に間違いはない。
また来ておったのか!
今度こそはと、月詠はエレベーターから離れ、男の後を付け出した。
男は百華の頭に後をつけられているとも知らず、真っ直ぐ歩みを進めていく。
どこに行くつもりじゃ、と思いながら、気配を消した月詠が付いていく。家に向かっていると良いのじゃが。
すっすと足を進めるが、足音は立っていない。ブーツを履いてきて良かった、と月詠は胸を撫で下ろす。下駄だったら、音がして尾行がバレてしまうところだった。
ところが、下駄でなくとも、尾行が難しくなってきた。
神社を過ぎた辺りから、長屋が増えてきた。規模がまちまちなので、見通しが悪い。男は勝手知ったる小道をすいすいと歩いていく。ちょくちょく曲がるので、何とかくらい付いていた月詠もついに見失ってしまった。
また姿を捉えられないかとウロウロしてみたが、どこかに入ってしまったのか、影すら見当たらない。
また捕り逃してしまったか、と月詠はため息を吐いた。
全く、逃げ足の速い。
これ以上は時間の無駄だろう。月詠は諦めて吉原に戻ることにした。もう帰宅予定時刻を大分過ぎている。
煙管を吸いながら、エレベーターがあると思われる方角を進んでいく。
時間も時間だからか、少し広い道ですら人影がない。建物から灯りが漏れているかといえばそうでもなく、外灯も少なく、ひっそりとしている。
この状況を怖がらず、道が合っているか聞くことすら出来んな、と煙管を銜えてのん気なことを考えている辺りは、さすが死神太夫だ。
適当に歩みを進めていると、人の声が微かに聞こえた。耳をそばだて、声の方に足を向ける。近付くにつれ、何か揉めているらしいと判った。
辺りを見回す。声は左手の古びた家々の間からしているようだ。右手に目を遣れば、建物が途切れ、そこそこ広い道路が延びている。T字路だ。
声がしたのは左手側。そちらに進む。
「離せ・・・っ」「このッ・・・」と聞こえるので、掴み合いにでもなったのかと思いつつ、月詠は路地に足を踏み入れた。
図らずもその時、一台の車が月詠の背後に伸びる道から走ってきた。段々と近付くライトの光が月詠の後姿を照らしていく。
「ぬしら、何をしておる?」
ライトのおかげで状況が掴めた。
路地の奥に、二人の人間がもみ合っていた。中肉中背の蟷螂を髣髴させる顔の男が首を絞めながら相手を建物の壁に押し付けており、押し付けられている方は花柄の黒い浴衣で長い髪を振り乱している。その隙間から見える顔は猫のように大きな瞳で端正だ。
「娘が襲われているのか」と思いながらさっと辺りを見回すと、二人の足元から少し離れた所に、大きめの巾着が落ち、中身が少し零れている。
月詠は一歩近寄った。二人の足元に月詠の影が伸びる。
月詠は煙管から口を離し、ふうと紫煙を吐いた。
「ぬし、娘から手を離せ」
月詠の姿を眩しそうに目を細めて見ていた二人は、動きを止めていたのを思い出した。薄いスカーフが巻かれた相手の首を絞めていた蟷螂顔の男が、再び力を込めようとしたその前に、黒い浴衣が影のようにするりと男の腕の中から抜け出していた。
「早く逃げなんし」
と月詠に云われ、急いで散らばった口紅や櫛やシェーバー、布の包みを拾い上げ、路地の奥へと逃げていった。
月詠を睨む蟷螂顔の男の顔が歪んでいるのは、悔しさと眩しさからだろう。
「女子を抱きたいなら、吉原に来なんし」
月詠の背後でブロロとエンジン音がして遠ざかった。それにつれ、ライトも移動して消え、再び暗闇に包まれる。明かりに慣れたせいで、視界が真っ暗になり、何も捉えられない。
蟷螂顔の男は月詠の言葉にフンと馬鹿にしたように笑う。
「金があったら引ったくりなんざしねーっての」
と同時に転がっていた酒瓶を手探りで掴み、月詠がいると思われる辺りに向けて投げつけた。
それを気配で察知した月詠は後ろに大きく飛んで避けた。くるりと空中で一回転し、着地しようとしたところに、たまたま歩いていた人間にぶつかってしまった。二人はバランスを崩し倒れる。
「すまぬ! 大丈夫か?」
すぐに立ち上がり、月詠はぶつかった相手に寄った。膝をついていた青年は月詠の顔を一瞥してすぐ逸らし、大丈夫だというように手を振って立ち上がった。そのまま足早に去っていく。
月詠が視線を路地に戻すと、人の気配はなくなっていた。
逃げたか、と思い、月詠は肩の力を抜いた。
「・・・ますます遅くなってしまったな」
そう呟き、再び吉原に向けて急ぎ足で歩き出した。その横を、警察車両が通り過ぎていった。
「母ちゃん、ただいま~!!」
日が傾きかけてきた頃、ひのやに晴太が帰ってきた。
「お帰り。楽しかったかい?」
笑顔で迎えた日輪は、晴太を送ってきてくれた万事屋メンバーに茶と団子を出す。
「見て母ちゃん! カブト虫捕まえたよ!」
と晴太は得意気に虫かごを見せびらかした。籠の中には立派なヘラクレスオオカブトが土の上をのそのそと動いている。
「凄いじゃないか。良かったねえ」
と日輪が褒めると、晴太は「へへ」と笑ったが、一転しょぼんとして、
「ホントはムシキングを捕まえたかったんだけど・・・」
「いや、だからカブト虫はムシキングなんだよ晴太くん」
「神楽様に恐れて現れなかったネ。虫のくせにチキンアル」
「だから、神楽ちゃん、そのカブト虫なんだって」
「でも、捕まえても家では飼えなかったから、しょーがないか」
「僕の話も聞いてくれる?」
籠の中に置かれたスイカの皮を見た日輪が、「そうそう」と一旦奥へと引っ込んだ。
「すいかを二つもらってね。ウチじゃ食べきれないから、一個持ってっとくれ」
風呂敷に包んだスイカを膝に乗せて戻ってきた。はい、と手近の新八に渡す。
「ありがとうございます、日輪さん」
「キャッホー! スイカ大好きネー!」
二人は見事なスイカを嬉しそうに見下ろす。
「そういえば日輪さん。月詠さんは? また仕事ですか?」
新八が月詠がいないことを指摘すると、日輪はため息をついた。
「そうなんだよ。三時間くらい仮眠して、さっきまた出て行ったんだけどね」
「ツッキー、過労死するアル」
本当にねぇ、と日輪はもう一度ため息。
「今朝方死人が出たらしくてね。その下手人を探してるみたいなんだけど」
ふ~ん、と相槌を打った神楽がぽつりと言う。
「吉原も物騒アルな」
銀時は黙ってもぐもぐと団子を食べている。
それから時は流れて、約一ヶ月後。
銀時がふらりとひのやに立ち寄った。
「アラ銀さん。ご無沙汰だね」
「一週間くらい前に来なかった? もっと来てほしいってことなの? なんなら毎日来るよ、神楽とメシ食いに」
「うちはそれでも構わないよ。大勢で食べた方が食事はおいしいしね」
そんな会話をしながら、銀時は長椅子に腰掛け、日輪は彼の傍に茶と団子を置く。
「久しぶりじゃな」
店の奥から月詠が出てきた。こちらは日輪と違って、前回銀時が来た時は仕事に行っていて顔を合わせていないので、約二週間振りだ。
「ぬしの顔を見ていると、少し気が抜けるのぅ」
また喧嘩を売られたのかと、言い返そうと月詠を振り返ったら、意外にも温和な表情をしていた。目の周りや頬に疲れが見える。
「目の下に手強そーなクマ飼ってんな。何か」
ゴタついてんのか?という言葉は、突然現れ、目の前で傅いた百華の「頭ッ」という呼び声にせき止められた。
「どうした? 見つけたか?」
途端に月詠の顔つきが険しくなる。
いえ、と部下が苦しげに顔を歪めた。
「――三人目です」
「どこじゃっ!?」
ひのやを飛び出した月詠に、「こちらです」と部下が先導する。二人はあっという間に走り去ってしまった。
「・・・・・・三人目が出たのかい・・・・・・」
はあ、と大きくため息をついた日輪。銀時は団子の串を皿にぽいと投げながら尋ねた。
「なに、三人目って?」
「――最近吉原でね、殺しが続いてんだよ」
部下に案内され着いた所は、またしても狭く暗い路地の奥だった。一見すると女が壁にもたれて眠っているようだが、その胸は血で汚れている。
「その筵が隠すように立てかけられていました」
傍にボロボロの筵が丸めて立てかけられていた。
発見を遅らせようとしたのかもしれないが、あまり役に立たなかったようだ。女から流れた血はまだ乾いていない。顎や首に触れてみるが、死後硬直はまだ起きていない。やはり殺されてから、そんなに時間は経っていないようだ。
念の為脈がないかを確認していると、「はいちょっとゴメンよ」と云う声がして、部下たちを掻き分け、銀髪がひょこりと現れた。
「銀時! 何しに来た?」
思わず立ち上がった月詠の問いかけを無視し、銀時は死体に近寄る。
「あーあ。生前は別嬪さんだったろうになあ」
一度合掌してから、かくんと下がった顎を持ち上げた。女は苦悶の表情を浮かべ、口元に泡がついている。更に持ち上げて反らせると、首には縄がしっかりと巻きついていた。
「――三人目だって?」
「縄で首を絞め、胸を一突き。毎回同じ手口じゃ。というか、手口が同じじゃから、同一犯と見ておるんじゃがな」
ふーん、と返事をしながら、銀時は他を検分する。
着衣は少し乱れている程度で、乱暴された形跡はない。首と胸以外に外傷はあるかと、腕や足を見たり、髪がバラバラに乱れている頭部を触ってみたが、特になさそうだ。
ざっと見回しても胸を刺したと思われる凶器は残っていない。
「脱がしていいか?」
「わっちがやる」
それまで黙って銀時の一挙手一投足を見ていた月詠がしゃがんだ。銀時は少し横にずれて正面を譲る。
力を込めて襟足を大きく開く。左胸の上の方が、三センチほどぱっくりと裂かれていた。
「そんな深い傷じゃねーな」
銀時の見立てに月詠が「ああ」と頷く。
「大きな得物ではない。匕首や包丁と云った辺りじゃろう。これも今までと同じじゃ」
銀時は腰を上げた。月詠も立ち上がる。
「三人目ね・・・・・・」
女の足元に転がった煙管を見ながら銀時は顎を一擦りした。
続く
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
晴太を送ってきた際に、銀さんが喋ってないのは、ただの私の怠慢です。
吉原行きエレベーターが見えてきた所で、月詠が足を止めた。一歩多く進んだ銀時が振り返る。
結局ここまで特に問題はなかった。
やはり取り越し苦労だったらしいと月詠は嘆息し、銀時に万事屋に帰るよう勧めた。
「・・・家に帰るまでが花火大会だぞ」
まだ油断禁物だというのは判っているが。
「そこのエレベーターに乗ってしまえば、もう吉原じゃ」
ホームグラウンドなら多少話は変わる。自分の顔を見て死神太夫だと気付く者もいるだろうし、何かあれば部下に声をかけることも出来る。
「ぬしは神楽と晴太の為に、早く帰りなんし。明日は早いのじゃろう?」
道すがら銀時は何度か欠伸をしていた。寝不足かと問うと、花火大会の為に昼夜問わず働いていたらしい。
「屋台が並んでても、先立つモノがなけりゃ指咥えて見てるだけになっちまうからな」と答えた銀時はふわああと大欠伸をした。
「早く帰って眠らないと、また明日も睡眠不足じゃぞ」
銀時は月詠の顔を見た。
同行拒否をされたから、それに反対してまで送る必要はないだろう。まあやっぱり何事もなさそうだし、とこれまでを振り返って思う。月詠が指摘するように、早く寝たいのも事実だ。
「じゃあ俺ァ帰るわ。日輪によろしく」
「ああ。すまんが晴太を頼む」
月詠が背中に声をかけると、銀時は振り返らずひらりと片手を振って見せた。
しばし遠ざかっていく背中を見つめた後、月詠はエレベーターに向かって歩き出した。丁度下から上がってきた所で、扉が開き、中の人たちが一斉に降りて来た。
その人々をぼんやり見ていた月詠は突然目の色を変えた。
あ奴は。
目立ちにくく黒い服を着、俯いて足早に歩いていくあの男。一瞬ちらと見えた顔に間違いはない。
また来ておったのか!
今度こそはと、月詠はエレベーターから離れ、男の後を付け出した。
男は百華の頭に後をつけられているとも知らず、真っ直ぐ歩みを進めていく。
どこに行くつもりじゃ、と思いながら、気配を消した月詠が付いていく。家に向かっていると良いのじゃが。
すっすと足を進めるが、足音は立っていない。ブーツを履いてきて良かった、と月詠は胸を撫で下ろす。下駄だったら、音がして尾行がバレてしまうところだった。
ところが、下駄でなくとも、尾行が難しくなってきた。
神社を過ぎた辺りから、長屋が増えてきた。規模がまちまちなので、見通しが悪い。男は勝手知ったる小道をすいすいと歩いていく。ちょくちょく曲がるので、何とかくらい付いていた月詠もついに見失ってしまった。
また姿を捉えられないかとウロウロしてみたが、どこかに入ってしまったのか、影すら見当たらない。
また捕り逃してしまったか、と月詠はため息を吐いた。
全く、逃げ足の速い。
これ以上は時間の無駄だろう。月詠は諦めて吉原に戻ることにした。もう帰宅予定時刻を大分過ぎている。
煙管を吸いながら、エレベーターがあると思われる方角を進んでいく。
時間も時間だからか、少し広い道ですら人影がない。建物から灯りが漏れているかといえばそうでもなく、外灯も少なく、ひっそりとしている。
この状況を怖がらず、道が合っているか聞くことすら出来んな、と煙管を銜えてのん気なことを考えている辺りは、さすが死神太夫だ。
適当に歩みを進めていると、人の声が微かに聞こえた。耳をそばだて、声の方に足を向ける。近付くにつれ、何か揉めているらしいと判った。
辺りを見回す。声は左手の古びた家々の間からしているようだ。右手に目を遣れば、建物が途切れ、そこそこ広い道路が延びている。T字路だ。
声がしたのは左手側。そちらに進む。
「離せ・・・っ」「このッ・・・」と聞こえるので、掴み合いにでもなったのかと思いつつ、月詠は路地に足を踏み入れた。
図らずもその時、一台の車が月詠の背後に伸びる道から走ってきた。段々と近付くライトの光が月詠の後姿を照らしていく。
「ぬしら、何をしておる?」
ライトのおかげで状況が掴めた。
路地の奥に、二人の人間がもみ合っていた。中肉中背の蟷螂を髣髴させる顔の男が首を絞めながら相手を建物の壁に押し付けており、押し付けられている方は花柄の黒い浴衣で長い髪を振り乱している。その隙間から見える顔は猫のように大きな瞳で端正だ。
「娘が襲われているのか」と思いながらさっと辺りを見回すと、二人の足元から少し離れた所に、大きめの巾着が落ち、中身が少し零れている。
月詠は一歩近寄った。二人の足元に月詠の影が伸びる。
月詠は煙管から口を離し、ふうと紫煙を吐いた。
「ぬし、娘から手を離せ」
月詠の姿を眩しそうに目を細めて見ていた二人は、動きを止めていたのを思い出した。薄いスカーフが巻かれた相手の首を絞めていた蟷螂顔の男が、再び力を込めようとしたその前に、黒い浴衣が影のようにするりと男の腕の中から抜け出していた。
「早く逃げなんし」
と月詠に云われ、急いで散らばった口紅や櫛やシェーバー、布の包みを拾い上げ、路地の奥へと逃げていった。
月詠を睨む蟷螂顔の男の顔が歪んでいるのは、悔しさと眩しさからだろう。
「女子を抱きたいなら、吉原に来なんし」
月詠の背後でブロロとエンジン音がして遠ざかった。それにつれ、ライトも移動して消え、再び暗闇に包まれる。明かりに慣れたせいで、視界が真っ暗になり、何も捉えられない。
蟷螂顔の男は月詠の言葉にフンと馬鹿にしたように笑う。
「金があったら引ったくりなんざしねーっての」
と同時に転がっていた酒瓶を手探りで掴み、月詠がいると思われる辺りに向けて投げつけた。
それを気配で察知した月詠は後ろに大きく飛んで避けた。くるりと空中で一回転し、着地しようとしたところに、たまたま歩いていた人間にぶつかってしまった。二人はバランスを崩し倒れる。
「すまぬ! 大丈夫か?」
すぐに立ち上がり、月詠はぶつかった相手に寄った。膝をついていた青年は月詠の顔を一瞥してすぐ逸らし、大丈夫だというように手を振って立ち上がった。そのまま足早に去っていく。
月詠が視線を路地に戻すと、人の気配はなくなっていた。
逃げたか、と思い、月詠は肩の力を抜いた。
「・・・ますます遅くなってしまったな」
そう呟き、再び吉原に向けて急ぎ足で歩き出した。その横を、警察車両が通り過ぎていった。
「母ちゃん、ただいま~!!」
日が傾きかけてきた頃、ひのやに晴太が帰ってきた。
「お帰り。楽しかったかい?」
笑顔で迎えた日輪は、晴太を送ってきてくれた万事屋メンバーに茶と団子を出す。
「見て母ちゃん! カブト虫捕まえたよ!」
と晴太は得意気に虫かごを見せびらかした。籠の中には立派なヘラクレスオオカブトが土の上をのそのそと動いている。
「凄いじゃないか。良かったねえ」
と日輪が褒めると、晴太は「へへ」と笑ったが、一転しょぼんとして、
「ホントはムシキングを捕まえたかったんだけど・・・」
「いや、だからカブト虫はムシキングなんだよ晴太くん」
「神楽様に恐れて現れなかったネ。虫のくせにチキンアル」
「だから、神楽ちゃん、そのカブト虫なんだって」
「でも、捕まえても家では飼えなかったから、しょーがないか」
「僕の話も聞いてくれる?」
籠の中に置かれたスイカの皮を見た日輪が、「そうそう」と一旦奥へと引っ込んだ。
「すいかを二つもらってね。ウチじゃ食べきれないから、一個持ってっとくれ」
風呂敷に包んだスイカを膝に乗せて戻ってきた。はい、と手近の新八に渡す。
「ありがとうございます、日輪さん」
「キャッホー! スイカ大好きネー!」
二人は見事なスイカを嬉しそうに見下ろす。
「そういえば日輪さん。月詠さんは? また仕事ですか?」
新八が月詠がいないことを指摘すると、日輪はため息をついた。
「そうなんだよ。三時間くらい仮眠して、さっきまた出て行ったんだけどね」
「ツッキー、過労死するアル」
本当にねぇ、と日輪はもう一度ため息。
「今朝方死人が出たらしくてね。その下手人を探してるみたいなんだけど」
ふ~ん、と相槌を打った神楽がぽつりと言う。
「吉原も物騒アルな」
銀時は黙ってもぐもぐと団子を食べている。
それから時は流れて、約一ヶ月後。
銀時がふらりとひのやに立ち寄った。
「アラ銀さん。ご無沙汰だね」
「一週間くらい前に来なかった? もっと来てほしいってことなの? なんなら毎日来るよ、神楽とメシ食いに」
「うちはそれでも構わないよ。大勢で食べた方が食事はおいしいしね」
そんな会話をしながら、銀時は長椅子に腰掛け、日輪は彼の傍に茶と団子を置く。
「久しぶりじゃな」
店の奥から月詠が出てきた。こちらは日輪と違って、前回銀時が来た時は仕事に行っていて顔を合わせていないので、約二週間振りだ。
「ぬしの顔を見ていると、少し気が抜けるのぅ」
また喧嘩を売られたのかと、言い返そうと月詠を振り返ったら、意外にも温和な表情をしていた。目の周りや頬に疲れが見える。
「目の下に手強そーなクマ飼ってんな。何か」
ゴタついてんのか?という言葉は、突然現れ、目の前で傅いた百華の「頭ッ」という呼び声にせき止められた。
「どうした? 見つけたか?」
途端に月詠の顔つきが険しくなる。
いえ、と部下が苦しげに顔を歪めた。
「――三人目です」
「どこじゃっ!?」
ひのやを飛び出した月詠に、「こちらです」と部下が先導する。二人はあっという間に走り去ってしまった。
「・・・・・・三人目が出たのかい・・・・・・」
はあ、と大きくため息をついた日輪。銀時は団子の串を皿にぽいと投げながら尋ねた。
「なに、三人目って?」
「――最近吉原でね、殺しが続いてんだよ」
部下に案内され着いた所は、またしても狭く暗い路地の奥だった。一見すると女が壁にもたれて眠っているようだが、その胸は血で汚れている。
「その筵が隠すように立てかけられていました」
傍にボロボロの筵が丸めて立てかけられていた。
発見を遅らせようとしたのかもしれないが、あまり役に立たなかったようだ。女から流れた血はまだ乾いていない。顎や首に触れてみるが、死後硬直はまだ起きていない。やはり殺されてから、そんなに時間は経っていないようだ。
念の為脈がないかを確認していると、「はいちょっとゴメンよ」と云う声がして、部下たちを掻き分け、銀髪がひょこりと現れた。
「銀時! 何しに来た?」
思わず立ち上がった月詠の問いかけを無視し、銀時は死体に近寄る。
「あーあ。生前は別嬪さんだったろうになあ」
一度合掌してから、かくんと下がった顎を持ち上げた。女は苦悶の表情を浮かべ、口元に泡がついている。更に持ち上げて反らせると、首には縄がしっかりと巻きついていた。
「――三人目だって?」
「縄で首を絞め、胸を一突き。毎回同じ手口じゃ。というか、手口が同じじゃから、同一犯と見ておるんじゃがな」
ふーん、と返事をしながら、銀時は他を検分する。
着衣は少し乱れている程度で、乱暴された形跡はない。首と胸以外に外傷はあるかと、腕や足を見たり、髪がバラバラに乱れている頭部を触ってみたが、特になさそうだ。
ざっと見回しても胸を刺したと思われる凶器は残っていない。
「脱がしていいか?」
「わっちがやる」
それまで黙って銀時の一挙手一投足を見ていた月詠がしゃがんだ。銀時は少し横にずれて正面を譲る。
力を込めて襟足を大きく開く。左胸の上の方が、三センチほどぱっくりと裂かれていた。
「そんな深い傷じゃねーな」
銀時の見立てに月詠が「ああ」と頷く。
「大きな得物ではない。匕首や包丁と云った辺りじゃろう。これも今までと同じじゃ」
銀時は腰を上げた。月詠も立ち上がる。
「三人目ね・・・・・・」
女の足元に転がった煙管を見ながら銀時は顎を一擦りした。
続く
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晴太を送ってきた際に、銀さんが喋ってないのは、ただの私の怠慢です。
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