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今回は『銀魂』です。ジャンルはミステリ。推理モノです。全五話。
吉原が主な舞台です。
登場人物は万事屋メンバーと吉原メンツ。
あとは名前のない人たちが沢山。
銀さんと月詠が中心になりますが、銀月なカプ要素は薄いと思います。まあ、読み手の受け取り方次第な所ではありますが。
何かもう口調とかおかしい部分があると思うんですが・・・・・・すみません、力不足で。
註:強調したい箇所の上に「、」の代わりに、その部分を太字にしています。苦肉の策・・・・・。(今回はないです)
最後に、大事なことなので、もう一度云います。
『銀魂』で、ミステリ小説です。殺人事件が起こります(二話目で)。
興味を持たれた方は、下の「読んでみる」からお願いします。
吉原が主な舞台です。
登場人物は万事屋メンバーと吉原メンツ。
あとは名前のない人たちが沢山。
銀さんと月詠が中心になりますが、銀月なカプ要素は薄いと思います。まあ、読み手の受け取り方次第な所ではありますが。
何かもう口調とかおかしい部分があると思うんですが・・・・・・すみません、力不足で。
註:強調したい箇所の上に「、」の代わりに、その部分を太字にしています。苦肉の策・・・・・。(今回はないです)
最後に、大事なことなので、もう一度云います。
『銀魂』で、ミステリ小説です。殺人事件が起こります(二話目で)。
興味を持たれた方は、下の「読んでみる」からお願いします。
その夜は、地下都市吉原にうわついた空気が溢れていた。
煙管を銜えた女は、コロコロと下駄を鳴らしながら、大通りを行く。
半刻前までは、もっと人が溢れていた。吉原からそう遠くない場所で行われていた花火大会が終り、その足で吉原に来た男たち、帰ってきた女たち。連れ立って歩く男女。誰もが花火に魅せられ、気分が高揚していた。
尤も、興奮していたのは見物に行った者たちだけではない。
この吉原でも、花火を見ることが出来たのだ。ただ、残念ながら夜空に大輪の花が咲いたところをしっかと目に出来たわけではない。距離の関係で、一部が天井にかかり欠けてしまっていたが、それでも誰もが夜空を見上げ、息を呑み、腹の中にまで響くドン、ドン、という音に震えていた。
女はすっと頭の簪に触れた。
憎からず思っていた男に誘われ、花火見物に行っていた。浴衣を着、いつもとは違う髪型に、これまたいつもとは違う花簪。
それだけでもそわそわしてしまうのに、隣で男と一緒に夜空を見上げていた時の気持ちと云ったら。
「足が地につかぬとは、こういうことか・・・」
紫煙と共に、嬉しそうに呟く。
花火大会の後、男は仕事があるらしく、その場でお別れとなり、女はしばらく一人で余韻に浸っていた。しばらくして吉原に向かい始めたが、それでも気持ちが昂ぶったままだ。
先程は知り合いの遊女たちにからかわれてしまった。吉原で花火を見ていた彼女たちは浴衣姿の女が羨ましかったのだろう。
「本当に」すっと目を細める。「幸せでありんす」
だが、その幸せにずっと浸っているわけにはいかない。これから女も仕事だ。
大通りを歩いていた女は、ついと建物の脇に入った。近道をしようと思ったのだ。
足元に気をつけながら、暗く狭い道とはいえぬ隙間を進んでいると、ふいに背後から声をかけられた。
女は振り返った。この後己に降りかかる惨劇を知らずに。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
「遅いアルなー」
ソファに座り、背もたれに頭までくっつけて天井を仰ぎ見ていた神楽が力なくそう云った。
「遅いって、神楽ちゃん。まだ約束の時間になってないよ?」
時刻を確認した新八が答えると、神楽は頭を起こした。
「これだから新八はいつまでたっても新八なんだヨ。ツッキーなら約束の五分前には来るネ」
「どれだからァ!?」
新八のツッコミ兼質問は無視して、神楽は玄関の方に目を遣った。
今日は花火大会だ。先日、万事屋三人で吉原にある日輪の店「ひのや」に遊びに行った時、花火大会に行こうと日輪と月詠と晴太を誘った。それまでは地上に出るのは禁止されていた上、天井も閉じられっぱなしだったので、見たことがない(もしくはしばらく見ていない)だろうからと思っての誘いだった。
晴太は「行く」と即答したが、日輪と月詠は断った。
「誘ってもらえて嬉しいんだけど、その日は大切なお客が来ることになってるんだよ」
「わっちも仕事じゃ。悪いが晴太だけ連れてってくんなんし」
それに子供達が不満の声をあげる前に、日輪が月詠を嗜めた。
「月詠、アンタは行ってらっしゃい。仕事仕事で、たまには羽を休めることも必要だよ」
「そーだよ、月詠姐。せっかく誘ってもらったんだよ、一緒に行こうよ」
「そーアルよ。この私が誘ったアル。一緒に行くネ、ツッキー」
「じゃが・・・・・」
子供二人にねだられてもまだ首を縦に振らない月詠に、日輪はため息をついた。
「別に一日休めって云ってるんじゃないよ。半日くらいなら、アンタだって納得できるんじゃないのかい?」
そうまで云われては、断り続けるのは心苦しい。仕方ない、花火見物に行く数時間だけ、仕事は部下達に任せよう、と思いながら、「分かりんした」と月詠は頷いた。
その場で待ち合わせの時間を決めた。そして今、その時間にもうあと一分でなろうとしている。
「来ないアルなー」
待ちくたびれた声をあげる神楽は浴衣姿だ。赤い生地にピンクの大きな桜の絞りが踊り、その間に白い小さな桜が散らされている。所々に見える葉の緑色がアクセントになっていてよく似合っている。髪もひとつにまとめて結い上げ、玉簪をつけている。
「遅れるなら連絡してくるだろうから、もう来るんじゃない?」
新八も水色地の浴衣を着ている。紺の細い線と青い太い線が不規則に並んだ縞模様だ。
「どーせあの仕事中毒がギリギリまで見廻りなんかしてて、時間ギリギリになったとか、そーゆーんだろ」
いつもの席でジャンプを読みながら、気だるげに答えた銀時はだけはいつもの格好だ。
「そうでしょうね。全く、誰かさんに月詠さんの勤勉さを見習ってほしいですよ」
「オイ、云われてるぞ神楽」
「オメーだマダオ」
と神楽が冷たく返した時、インターフォンが鳴った。
「来たアル!」
途端に顔を輝かせて神楽が玄関に走っていった。新八が続く。
「おーし、じゃあ行くかー」と云いながら銀時もジャンプを置いて立ち上がった。
「遅かったネ!」
玄関に招き入れられた晴太はそう云われ、「えっ」と目を大きくした。
「ごめん、遅れた? ギリギリ間に合うと思ったんだけど」
「待ちくたびれたアル」
「すまん。行きがけにちょっとあってな」
晴太に続いて月詠も詫びる。
「いらっしゃい、晴太くん、月詠さん」
新八はにこやかに挨拶をした後、「二人も浴衣なんですね」と目を留めた。
「へへ・・・。母ちゃんが着せてくれたんだ」
と、クリーム色の生成りに茶と青のトンボ柄の浴衣姿の晴太は嬉しそうに笑った。
月詠は紫地に白と黒の細い流水の間を飛ぶ薄紫の千鳥柄。これも勿論日輪の見立てだった。
「ツッキーの簪、可愛いアル」
まとめた髪にちょこんと、耳より少し上の位置に花簪を差していた。五枚の花びらをもち、梅の花に似ているが、花弁より長い無数の雄しべが放射状に溢れかえっている。
「銀梅花・・・ですよね?」
新八が尋ねると、月詠は目を丸くした。
「よく知っているのう、新八」
「キモイアル」
「こないだ姉上と歩いていた時たまたま見かけて、教えてもらっただけだよ!!」
白い目で見る神楽に新八は怒鳴る。
「ほ~。お前も浴衣着てきたのか」
と云いながら、ようやく玄関まで来た銀時はいつもの死んだ魚のような目で、月詠の頭から段々と視線を下に下ろしていった。それが足元でぴたと止まる。
「・・・・・なんでブーツ?」
全員の視線が月詠の足元に向いた。
「まさか吉原の流行だったりしないよね? それともお前はそーゆーセンスの人なの?」
「そーだよ! 云ってやってよ銀さん!」
晴太が声を大にして事情を説明し出した。
「月詠姐も初めはちゃんと下駄履いてたんだよ。でも、いざ行こうとしたら鼻緒が切れちゃって・・・」
「・・・・・何か不吉だね」
「新八もそう思うか?」
「・・・少し」
新八は月詠に頷いてみせる。
ほら見ろ、とばかりに月詠は晴太に目を遣ったが、晴太は意に介さず続ける。
「母ちゃんがすぐ直すって云うのに、『いや、ブーツで行く』って云ってきかなくてさあ!」
「下駄じゃ何かあった時に動きづらい」
「もう、挙句浴衣も脱いでいつもの服で行くとか言い出す始末でさあ。オイラと母ちゃんでそれだけは駄目って止めて、もう大変だったんだよ」
それが「行きがけにちょっと」か、と新八は得心する。
「ツッキー、浴衣はやっぱり下駄がいいアルよ」
「別にブーツで問題ない」
「大アリだァァァァ!!!」突如銀時が叫ぶ。「お前、浴衣っつったら下駄だろォ!? 下駄がないと始まらないよ!? 祭り楽しんでる時に鼻緒が切れて、それを直してやってフラグ立てるなんて、祭りのベタ中のベタだぞ!? それを何行く前にやらかしてんだよォォォ!? フラグ立てるどころか既に撤収されてんじゃねーか!!」
「・・・・・何云ってるんじゃ、ぬしは?」
全員が白い目で銀時を見ていた。
「・・・・・銀さん、月詠さんとフラグ立てたかったんですか?」
冷たい目の新八に銀時は顔を向ける。
「いや別にどうしてもこの殺風景にフラグを立てたかったわけじゃないよ? でもな新八、そーゆーフラグはとにかく立てといて損はない」
「そうですかね?」
「これだからお前はメガネなんだよ」
「どーゆー意味ですか!?」
「いいか新八。今から地道にフラグ立てて行きゃ、バレンタインにはチョコがウハウハだ。一本のフラグが一個のチョコになる」
「バレンタインなんて、随分先の話じゃないですか」
まだ冷ややかな新八に、銀時はびしっと指で指した。
「大体な、月詠とそのフラグを立てるのは俺と決まってるわけじゃねーぞ。新八、お前だったかもしれねーだろ」
新八は衝撃を受けてよろけた。
「ぼ、僕が月詠さんと・・・・・!?」
困り顔の月詠は「すまんな新八」と小声で謝った。「大丈夫ですよ。すぐ直しますから」と新八は切れた鼻緒を結び始める。「新八は器用なんじゃな」「いえ、そういうわけでもないですけど・・・」新八は照れたように笑う。「・・・それに意外に頼もしいの」「えっ・・・」驚いて顔を上げると、月詠の頬が僅かに赤い。
「鼻と耳の上に乗っかるだけが精一杯のダメガネが、チョーシにまで乗ったネ。身の程を知れ」
「ちょ、何で人の脳内見てんのォォォォ!!? てゆーか、メガネは何も出来ないみたいに云うなァァァァ!!」
騒ぐ新八から、次は神楽をびしっと指差す銀時。
「神楽とかもしれねーし」
神楽は衝撃を受けてよろけた。
「わ、私がツッキーと・・・・・!?」
困り顔の月詠は「すまんな神楽」と小声で謝った。「だいじょーぶアル! 私力持ちネ! ツッキー背負うくらいへっちゃらヨ」月詠を背負った神楽はにかっと笑った。「神楽は優しいな・・・」月詠の表情が和らぐ。「ツッキー・・・・・」「そうじゃ。お礼に屋台の端から端まで奢ろう」「キャッホー!!」
「・・・神楽ちゃん、それ、フラグじゃなくない?」
「うるさいアル。ダメガネは黙るネ」
己の妄想に水を差され、神楽はぺっと唾を吐く。
それを不思議そうに見ていた晴太に、銀時の人差し指が移動する。
「晴太とだって、ないとは云えねェ」
晴太は衝撃を受けてよろけた。
「オ、オイラが月詠姐と・・・・・!?」
困り顔の月詠は「すまんな晴太」と小声で謝った。「オイラだって、このくらいは出来るよ」と強がりながら必死に指を動かす。何とか鼻緒を結びなおせた晴太は得意気に月詠に下駄を差し出した。月詠は微笑む。「子供だ子供だと思ってたが、晴太もこんなことが出来るようになったんじゃな。そうじゃ。記念に旗でも立てよう」
「そのまんまじゃねぇかァァァァァ!!!」
新八のツッコミが響き渡る。
「この子、『フラグを立てる』の意味が判ってないよ!? やっぱりまだ子供だよ!?」
「さっきから、なに騒いでるんじゃ、ぬしたちは」
呆れ顔で月詠が妄想連鎖を止めた。
「オイ、とりあえず下駄買いに行くぞ。やっぱり浴衣にゃ下駄だ」
まだ諦めてないのか、銀時がそう云うと、
「そうアル。それで私と屋台荒らしするネ!」
「オイラと旗立てよう月詠姐!」
神楽と晴太は乗ったが、新八だけは冷静に、
「いや、買ったばかりの下駄の鼻緒はそうそう切れないでしょうし、切れたらそれこそ不吉ですよ・・・・・」
と突っ込むが誰も聞いてはいない。
「今から買いに行っては遅くなるぞ。わっちはこのままで構わぬ」
月詠にそう返され、子供二人はハッとした。
「そうアル! こんな所でぐすぐすしてる場合じゃないネ! 屋台が私を待ちわびてるアル!」
「早く行こうよ!」
と、ようやく万事屋を出発する運びになった。
玄関を出、早く早くと急かす子供達に、は~とため息をつきながら銀時もブーツに足を突っ込んだ。そこに新八が囁く。
「銀さん。祭りのフラグは下駄だけじゃありません。『迷子になって皆とはぐれる』という王道パターンが残ってます」
ちらりと新八を一瞥。
「いや別にどーしてもフラグ立てたいワケじゃないからね。大体そのフラグはちょっと危険だ」
「何が危険なんですか。ってか、じゃあ何であんなに騒いだんです!?」
「ブーツだったから」
と銀時が真顔で答えていると、「早く行こうよー」と階下から促す声がする。
「おー。今行くわー」と答えた後、銀時は新八に「まあ人が多けりゃ、フツーに迷子になるかもしれねーな。それでいいわ」とパッパと手を振って見せた。
「そうですね」
「お前は迷子になっても探さないから、逸れるなよ」
「何で!? 僕も探してくださいよ!!」
「人込みに埋もれたメガネを探し出せるワケねーだろ。絶対踏まれて壊れて変形してるわ」
「何でメガネだけ!?」
そんな会話をしながら、二人は先に降りた三人と合流した。
* *
月詠が憂慮したような大きな事件はなく、一向は帰路に着いていた。
「・・・・・銀さん。まさか『迷子』でああなるとは思いませんでしたね・・」
沈んだ声で新八が話しかけると、銀時は「はあああ」と大きくため息をついた。
確かに祭りでお約束の「迷子ネタ」はあった。だが。それは「誰かが迷子になる」ではなく、「迷子を見つける」の方だった。
花火も終り、よし帰るかという時に、迷子の女の子を拾った。父親がいないらしい五歳の女の子は、お守役に銀時を指名したので、母親捜索隊は新八・神楽・月詠、留守番組は銀時・晴太、それに女の子ということになった。
その場待機になった銀時は女の子にねだられておんぶをした。テンションの上がった女の子は母親を見つけることより、銀時のくるっとした髪をいじったり、跳ねたり暴れたりに熱心で、銀時を怒らせては笑っていた。
そのうち、「あ、お母さんだ!」と声をあげたので、下ろしてやっていると、女の子の母親らしき女性も娘を見つけたらしく、顔を歪めながら駆け寄って来た。母と娘が感動の対面をする。
そこまでは良かった。
母親は、女の子をお守りしていた銀時に、礼を云うどころか疑惑の目を向けてきた。勿論銀時自身も否定したし、晴太もいたので、晴太も必死で否定したが、二人が親子ではないと知ると、ますます不審さを露わにし、警察に連絡しそうな雰囲気にまで発展した。二人が慌てている時に捜索隊が戻って来、三人の口から事情を説明され、ようやく母親は納得し、礼を云って娘と帰っていった。
「ああもう・・・。何であんな目にあわなきゃいけないんだよ・・・。銀さん結構頑張ってたのに・・・」
もう一度「はああ」と大きくため息を吐くと、神楽と晴太と一緒に前を歩いていた月詠が振り返った。
「神楽か新八を残していくべきじゃったな」
「ツッキーが残れば良かったアル。だから私云ったネ」
捜索隊が出る前、神楽の提案を、月詠が「一人でも多く探しに行った方が早く見つかるし、わっちは神楽たちより背が高いから見つけやすい」と云って、首を縦に振らなかったのだ。
「それにしても、娘を保護していた男に対し、随分な態度じゃったな、あの母親」
ふうと紫煙を吐きながら月詠が云うと、新八が目を伏せた。
「――今、江戸で、5~8歳くらいの女の子が刺殺される事件が続いているんですよ」
月詠が横目で新八を見る。
「ここ二ヶ月で四人の女の子が手にかけられています。かぶき町ではまだ被害は出てないんですけどね、犯行現場が結構広範囲なんで、こちらにも犯人の手が伸びてきてもおかしくないんです」
「そうアル。だから皆あんまり外で遊ばなくなったネ」
不満げな顔の神楽。
「そうか。それで過敏になっていたんじゃな」ちらと銀時を見て、「うん、仕方ない」
「・・・・・オイ。オメー今俺の顔見ただろ」
引きつりながら銀時が聞くと、月詠はあっさり頷いて、
「ああ。変質者と間違われても仕方のない顔を」
「はあァァァァ!? どこが変質者面だ!! 銀さん、少なくともお前よりは愛嬌ある誠実なカオしてますけどォ!?」
「ぬしもメガネが必要なようじゃな」
「何さらっと新八に永久退場突きつけてんの!?」
「なっ・・・。僕関係ないでしょ!!」
銀時と月詠の言い合いに新八が巻き込まれた。
「俺がメガネかけたら、お前の存在意義なくね?」
「僕がいないとアンタらボケっ放しだろーがァ!!」
と騒いでいるうちに、万事屋に到着した。
「では、悪いが晴太を頼む」
花火大会の後、晴太だけは万事屋に泊まることになっていた。明日の早朝から、虫捕りに出掛ける約束もしていたのだ。
「任せるネ! 絶対ムシキングを捕まえて、ツッキーに見せてあげるヨ!」
胸を叩く神楽に、「それは楽しみじゃな」と僅かに微笑む。
神楽の言葉を受け、「神楽ちゃん、ムシキングってどんくらい大きいの?」と晴太が尋ねると、「そうアルな、定春よりずっと大きいネ!」と神楽は答える。「えええ!? そんな大きいのどうやって捕るの? 体も硬いし、結構強いんだよね?」「銀ちゃんが何とかしてくれるアル」と話している横で、新八が月詠に向き直る。
「月詠さんも泊まっていけばいいのに」
「わっちはこれから仕事じゃ」
「また仕事ですか」
「イベントの後は諍いや揉め事が増えるんでな」
「大変ですね」
自分を気遣う新八に、月詠はまた少しだけ表情を和らげる。
それを見て、ああ月詠さんもこういう顔を見せてくれるようになったなあと感慨深く新八は思う。
「おーい、さっさと風呂入って寝んぞー」
階段を途中まで登っていた銀時が、まだ下にいる子供達に声をかけた。
「いや、銀さんは月詠さんを送ってってあげてくださいよ」
「何で?」
「わっちは一人で帰れる」
新八の提案を受け入れない二人に、新八ははあとため息をつく。
「月詠さん、浴衣は少し動きづらそうじゃないですか。何かあった時、大変ですよ?」
今のところは何もないですけど、まだ油断は出来ませんよ、と新八は続ける。まだ下駄の鼻緒の件を気にしているらしい。
密かに「やはりいつものようには動けない」と思ってたことを指摘された月詠は返事に詰まった。
「浴衣にブーツ履いてる変な女なんか、誰も襲わねーって」
と云った銀時の額にクナイが刺さる。
「ホラ大丈夫そうじゃん」
「・・・銀さんは大丈夫そうじゃないですけど」
血が出てますよ、と冷静に指摘した後、
「判りました。じゃあ月詠さんに何かあった時は、銀さんが送るのを渋ったせいですって、日輪さんに伝えますね」
と言い放つと、銀時は身を乗り出した。
「ジャイアンにチクるスネ夫かてめーは! のび太のくせに生意気だぞ」
「元祖ダメガネアル。新八の大センパイネ」と神楽。
「のび太を馬鹿にするなァァァァ!! あれでも綾取りや射撃は得意なんだぞ!!」
「じゃあ特技がない分、新八のが下ネ」
「のび太以下!?」
また漫才のような言い合いが始まったのを見て、月詠の口から仲が良いなとフッと笑いが零れた。そして晴太に「迷惑かけぬようにな」と言い残し、まだ言い合いしている万事屋三人に
「では、わっちは帰る。今日は楽しかった。誘ってくれてありがとうな」
と声をかけてから、吉原に向かって歩き出した。
「オイコラ待て」
呼び止められて振り返る。
「しゃーねーから送ってってやるわ」
気だるげな顔で銀時が月詠の方に歩いてくる。
「・・・日輪が怖いか」
「・・・吉原の裏番怒らせる勇気はねーわ」
頭をがしがしと掻きながら答えると、月詠は面白そうに目を細め、
「太陽を裏番呼ばわりか。なかなかどうして、勇者でありんす」
そんな会話をしながら、二人は並んで歩き始めた。
残った三人は、二人の背中を見送った後、神楽と晴太は万事屋に、新八は自宅へと帰っていった。
続く
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「女王」でも「女帝」でも良かったんですが、私が日輪に対して「クラス委員長(生徒会長でも可)実は裏番」みたいなイメージ抱いているので、強行した。吉原で尤も敵に回してはいけない人。
煙管を銜えた女は、コロコロと下駄を鳴らしながら、大通りを行く。
半刻前までは、もっと人が溢れていた。吉原からそう遠くない場所で行われていた花火大会が終り、その足で吉原に来た男たち、帰ってきた女たち。連れ立って歩く男女。誰もが花火に魅せられ、気分が高揚していた。
尤も、興奮していたのは見物に行った者たちだけではない。
この吉原でも、花火を見ることが出来たのだ。ただ、残念ながら夜空に大輪の花が咲いたところをしっかと目に出来たわけではない。距離の関係で、一部が天井にかかり欠けてしまっていたが、それでも誰もが夜空を見上げ、息を呑み、腹の中にまで響くドン、ドン、という音に震えていた。
女はすっと頭の簪に触れた。
憎からず思っていた男に誘われ、花火見物に行っていた。浴衣を着、いつもとは違う髪型に、これまたいつもとは違う花簪。
それだけでもそわそわしてしまうのに、隣で男と一緒に夜空を見上げていた時の気持ちと云ったら。
「足が地につかぬとは、こういうことか・・・」
紫煙と共に、嬉しそうに呟く。
花火大会の後、男は仕事があるらしく、その場でお別れとなり、女はしばらく一人で余韻に浸っていた。しばらくして吉原に向かい始めたが、それでも気持ちが昂ぶったままだ。
先程は知り合いの遊女たちにからかわれてしまった。吉原で花火を見ていた彼女たちは浴衣姿の女が羨ましかったのだろう。
「本当に」すっと目を細める。「幸せでありんす」
だが、その幸せにずっと浸っているわけにはいかない。これから女も仕事だ。
大通りを歩いていた女は、ついと建物の脇に入った。近道をしようと思ったのだ。
足元に気をつけながら、暗く狭い道とはいえぬ隙間を進んでいると、ふいに背後から声をかけられた。
女は振り返った。この後己に降りかかる惨劇を知らずに。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
「遅いアルなー」
ソファに座り、背もたれに頭までくっつけて天井を仰ぎ見ていた神楽が力なくそう云った。
「遅いって、神楽ちゃん。まだ約束の時間になってないよ?」
時刻を確認した新八が答えると、神楽は頭を起こした。
「これだから新八はいつまでたっても新八なんだヨ。ツッキーなら約束の五分前には来るネ」
「どれだからァ!?」
新八のツッコミ兼質問は無視して、神楽は玄関の方に目を遣った。
今日は花火大会だ。先日、万事屋三人で吉原にある日輪の店「ひのや」に遊びに行った時、花火大会に行こうと日輪と月詠と晴太を誘った。それまでは地上に出るのは禁止されていた上、天井も閉じられっぱなしだったので、見たことがない(もしくはしばらく見ていない)だろうからと思っての誘いだった。
晴太は「行く」と即答したが、日輪と月詠は断った。
「誘ってもらえて嬉しいんだけど、その日は大切なお客が来ることになってるんだよ」
「わっちも仕事じゃ。悪いが晴太だけ連れてってくんなんし」
それに子供達が不満の声をあげる前に、日輪が月詠を嗜めた。
「月詠、アンタは行ってらっしゃい。仕事仕事で、たまには羽を休めることも必要だよ」
「そーだよ、月詠姐。せっかく誘ってもらったんだよ、一緒に行こうよ」
「そーアルよ。この私が誘ったアル。一緒に行くネ、ツッキー」
「じゃが・・・・・」
子供二人にねだられてもまだ首を縦に振らない月詠に、日輪はため息をついた。
「別に一日休めって云ってるんじゃないよ。半日くらいなら、アンタだって納得できるんじゃないのかい?」
そうまで云われては、断り続けるのは心苦しい。仕方ない、花火見物に行く数時間だけ、仕事は部下達に任せよう、と思いながら、「分かりんした」と月詠は頷いた。
その場で待ち合わせの時間を決めた。そして今、その時間にもうあと一分でなろうとしている。
「来ないアルなー」
待ちくたびれた声をあげる神楽は浴衣姿だ。赤い生地にピンクの大きな桜の絞りが踊り、その間に白い小さな桜が散らされている。所々に見える葉の緑色がアクセントになっていてよく似合っている。髪もひとつにまとめて結い上げ、玉簪をつけている。
「遅れるなら連絡してくるだろうから、もう来るんじゃない?」
新八も水色地の浴衣を着ている。紺の細い線と青い太い線が不規則に並んだ縞模様だ。
「どーせあの仕事中毒がギリギリまで見廻りなんかしてて、時間ギリギリになったとか、そーゆーんだろ」
いつもの席でジャンプを読みながら、気だるげに答えた銀時はだけはいつもの格好だ。
「そうでしょうね。全く、誰かさんに月詠さんの勤勉さを見習ってほしいですよ」
「オイ、云われてるぞ神楽」
「オメーだマダオ」
と神楽が冷たく返した時、インターフォンが鳴った。
「来たアル!」
途端に顔を輝かせて神楽が玄関に走っていった。新八が続く。
「おーし、じゃあ行くかー」と云いながら銀時もジャンプを置いて立ち上がった。
「遅かったネ!」
玄関に招き入れられた晴太はそう云われ、「えっ」と目を大きくした。
「ごめん、遅れた? ギリギリ間に合うと思ったんだけど」
「待ちくたびれたアル」
「すまん。行きがけにちょっとあってな」
晴太に続いて月詠も詫びる。
「いらっしゃい、晴太くん、月詠さん」
新八はにこやかに挨拶をした後、「二人も浴衣なんですね」と目を留めた。
「へへ・・・。母ちゃんが着せてくれたんだ」
と、クリーム色の生成りに茶と青のトンボ柄の浴衣姿の晴太は嬉しそうに笑った。
月詠は紫地に白と黒の細い流水の間を飛ぶ薄紫の千鳥柄。これも勿論日輪の見立てだった。
「ツッキーの簪、可愛いアル」
まとめた髪にちょこんと、耳より少し上の位置に花簪を差していた。五枚の花びらをもち、梅の花に似ているが、花弁より長い無数の雄しべが放射状に溢れかえっている。
「銀梅花・・・ですよね?」
新八が尋ねると、月詠は目を丸くした。
「よく知っているのう、新八」
「キモイアル」
「こないだ姉上と歩いていた時たまたま見かけて、教えてもらっただけだよ!!」
白い目で見る神楽に新八は怒鳴る。
「ほ~。お前も浴衣着てきたのか」
と云いながら、ようやく玄関まで来た銀時はいつもの死んだ魚のような目で、月詠の頭から段々と視線を下に下ろしていった。それが足元でぴたと止まる。
「・・・・・なんでブーツ?」
全員の視線が月詠の足元に向いた。
「まさか吉原の流行だったりしないよね? それともお前はそーゆーセンスの人なの?」
「そーだよ! 云ってやってよ銀さん!」
晴太が声を大にして事情を説明し出した。
「月詠姐も初めはちゃんと下駄履いてたんだよ。でも、いざ行こうとしたら鼻緒が切れちゃって・・・」
「・・・・・何か不吉だね」
「新八もそう思うか?」
「・・・少し」
新八は月詠に頷いてみせる。
ほら見ろ、とばかりに月詠は晴太に目を遣ったが、晴太は意に介さず続ける。
「母ちゃんがすぐ直すって云うのに、『いや、ブーツで行く』って云ってきかなくてさあ!」
「下駄じゃ何かあった時に動きづらい」
「もう、挙句浴衣も脱いでいつもの服で行くとか言い出す始末でさあ。オイラと母ちゃんでそれだけは駄目って止めて、もう大変だったんだよ」
それが「行きがけにちょっと」か、と新八は得心する。
「ツッキー、浴衣はやっぱり下駄がいいアルよ」
「別にブーツで問題ない」
「大アリだァァァァ!!!」突如銀時が叫ぶ。「お前、浴衣っつったら下駄だろォ!? 下駄がないと始まらないよ!? 祭り楽しんでる時に鼻緒が切れて、それを直してやってフラグ立てるなんて、祭りのベタ中のベタだぞ!? それを何行く前にやらかしてんだよォォォ!? フラグ立てるどころか既に撤収されてんじゃねーか!!」
「・・・・・何云ってるんじゃ、ぬしは?」
全員が白い目で銀時を見ていた。
「・・・・・銀さん、月詠さんとフラグ立てたかったんですか?」
冷たい目の新八に銀時は顔を向ける。
「いや別にどうしてもこの殺風景にフラグを立てたかったわけじゃないよ? でもな新八、そーゆーフラグはとにかく立てといて損はない」
「そうですかね?」
「これだからお前はメガネなんだよ」
「どーゆー意味ですか!?」
「いいか新八。今から地道にフラグ立てて行きゃ、バレンタインにはチョコがウハウハだ。一本のフラグが一個のチョコになる」
「バレンタインなんて、随分先の話じゃないですか」
まだ冷ややかな新八に、銀時はびしっと指で指した。
「大体な、月詠とそのフラグを立てるのは俺と決まってるわけじゃねーぞ。新八、お前だったかもしれねーだろ」
新八は衝撃を受けてよろけた。
「ぼ、僕が月詠さんと・・・・・!?」
困り顔の月詠は「すまんな新八」と小声で謝った。「大丈夫ですよ。すぐ直しますから」と新八は切れた鼻緒を結び始める。「新八は器用なんじゃな」「いえ、そういうわけでもないですけど・・・」新八は照れたように笑う。「・・・それに意外に頼もしいの」「えっ・・・」驚いて顔を上げると、月詠の頬が僅かに赤い。
「鼻と耳の上に乗っかるだけが精一杯のダメガネが、チョーシにまで乗ったネ。身の程を知れ」
「ちょ、何で人の脳内見てんのォォォォ!!? てゆーか、メガネは何も出来ないみたいに云うなァァァァ!!」
騒ぐ新八から、次は神楽をびしっと指差す銀時。
「神楽とかもしれねーし」
神楽は衝撃を受けてよろけた。
「わ、私がツッキーと・・・・・!?」
困り顔の月詠は「すまんな神楽」と小声で謝った。「だいじょーぶアル! 私力持ちネ! ツッキー背負うくらいへっちゃらヨ」月詠を背負った神楽はにかっと笑った。「神楽は優しいな・・・」月詠の表情が和らぐ。「ツッキー・・・・・」「そうじゃ。お礼に屋台の端から端まで奢ろう」「キャッホー!!」
「・・・神楽ちゃん、それ、フラグじゃなくない?」
「うるさいアル。ダメガネは黙るネ」
己の妄想に水を差され、神楽はぺっと唾を吐く。
それを不思議そうに見ていた晴太に、銀時の人差し指が移動する。
「晴太とだって、ないとは云えねェ」
晴太は衝撃を受けてよろけた。
「オ、オイラが月詠姐と・・・・・!?」
困り顔の月詠は「すまんな晴太」と小声で謝った。「オイラだって、このくらいは出来るよ」と強がりながら必死に指を動かす。何とか鼻緒を結びなおせた晴太は得意気に月詠に下駄を差し出した。月詠は微笑む。「子供だ子供だと思ってたが、晴太もこんなことが出来るようになったんじゃな。そうじゃ。記念に旗でも立てよう」
「そのまんまじゃねぇかァァァァァ!!!」
新八のツッコミが響き渡る。
「この子、『フラグを立てる』の意味が判ってないよ!? やっぱりまだ子供だよ!?」
「さっきから、なに騒いでるんじゃ、ぬしたちは」
呆れ顔で月詠が妄想連鎖を止めた。
「オイ、とりあえず下駄買いに行くぞ。やっぱり浴衣にゃ下駄だ」
まだ諦めてないのか、銀時がそう云うと、
「そうアル。それで私と屋台荒らしするネ!」
「オイラと旗立てよう月詠姐!」
神楽と晴太は乗ったが、新八だけは冷静に、
「いや、買ったばかりの下駄の鼻緒はそうそう切れないでしょうし、切れたらそれこそ不吉ですよ・・・・・」
と突っ込むが誰も聞いてはいない。
「今から買いに行っては遅くなるぞ。わっちはこのままで構わぬ」
月詠にそう返され、子供二人はハッとした。
「そうアル! こんな所でぐすぐすしてる場合じゃないネ! 屋台が私を待ちわびてるアル!」
「早く行こうよ!」
と、ようやく万事屋を出発する運びになった。
玄関を出、早く早くと急かす子供達に、は~とため息をつきながら銀時もブーツに足を突っ込んだ。そこに新八が囁く。
「銀さん。祭りのフラグは下駄だけじゃありません。『迷子になって皆とはぐれる』という王道パターンが残ってます」
ちらりと新八を一瞥。
「いや別にどーしてもフラグ立てたいワケじゃないからね。大体そのフラグはちょっと危険だ」
「何が危険なんですか。ってか、じゃあ何であんなに騒いだんです!?」
「ブーツだったから」
と銀時が真顔で答えていると、「早く行こうよー」と階下から促す声がする。
「おー。今行くわー」と答えた後、銀時は新八に「まあ人が多けりゃ、フツーに迷子になるかもしれねーな。それでいいわ」とパッパと手を振って見せた。
「そうですね」
「お前は迷子になっても探さないから、逸れるなよ」
「何で!? 僕も探してくださいよ!!」
「人込みに埋もれたメガネを探し出せるワケねーだろ。絶対踏まれて壊れて変形してるわ」
「何でメガネだけ!?」
そんな会話をしながら、二人は先に降りた三人と合流した。
* *
月詠が憂慮したような大きな事件はなく、一向は帰路に着いていた。
「・・・・・銀さん。まさか『迷子』でああなるとは思いませんでしたね・・」
沈んだ声で新八が話しかけると、銀時は「はあああ」と大きくため息をついた。
確かに祭りでお約束の「迷子ネタ」はあった。だが。それは「誰かが迷子になる」ではなく、「迷子を見つける」の方だった。
花火も終り、よし帰るかという時に、迷子の女の子を拾った。父親がいないらしい五歳の女の子は、お守役に銀時を指名したので、母親捜索隊は新八・神楽・月詠、留守番組は銀時・晴太、それに女の子ということになった。
その場待機になった銀時は女の子にねだられておんぶをした。テンションの上がった女の子は母親を見つけることより、銀時のくるっとした髪をいじったり、跳ねたり暴れたりに熱心で、銀時を怒らせては笑っていた。
そのうち、「あ、お母さんだ!」と声をあげたので、下ろしてやっていると、女の子の母親らしき女性も娘を見つけたらしく、顔を歪めながら駆け寄って来た。母と娘が感動の対面をする。
そこまでは良かった。
母親は、女の子をお守りしていた銀時に、礼を云うどころか疑惑の目を向けてきた。勿論銀時自身も否定したし、晴太もいたので、晴太も必死で否定したが、二人が親子ではないと知ると、ますます不審さを露わにし、警察に連絡しそうな雰囲気にまで発展した。二人が慌てている時に捜索隊が戻って来、三人の口から事情を説明され、ようやく母親は納得し、礼を云って娘と帰っていった。
「ああもう・・・。何であんな目にあわなきゃいけないんだよ・・・。銀さん結構頑張ってたのに・・・」
もう一度「はああ」と大きくため息を吐くと、神楽と晴太と一緒に前を歩いていた月詠が振り返った。
「神楽か新八を残していくべきじゃったな」
「ツッキーが残れば良かったアル。だから私云ったネ」
捜索隊が出る前、神楽の提案を、月詠が「一人でも多く探しに行った方が早く見つかるし、わっちは神楽たちより背が高いから見つけやすい」と云って、首を縦に振らなかったのだ。
「それにしても、娘を保護していた男に対し、随分な態度じゃったな、あの母親」
ふうと紫煙を吐きながら月詠が云うと、新八が目を伏せた。
「――今、江戸で、5~8歳くらいの女の子が刺殺される事件が続いているんですよ」
月詠が横目で新八を見る。
「ここ二ヶ月で四人の女の子が手にかけられています。かぶき町ではまだ被害は出てないんですけどね、犯行現場が結構広範囲なんで、こちらにも犯人の手が伸びてきてもおかしくないんです」
「そうアル。だから皆あんまり外で遊ばなくなったネ」
不満げな顔の神楽。
「そうか。それで過敏になっていたんじゃな」ちらと銀時を見て、「うん、仕方ない」
「・・・・・オイ。オメー今俺の顔見ただろ」
引きつりながら銀時が聞くと、月詠はあっさり頷いて、
「ああ。変質者と間違われても仕方のない顔を」
「はあァァァァ!? どこが変質者面だ!! 銀さん、少なくともお前よりは愛嬌ある誠実なカオしてますけどォ!?」
「ぬしもメガネが必要なようじゃな」
「何さらっと新八に永久退場突きつけてんの!?」
「なっ・・・。僕関係ないでしょ!!」
銀時と月詠の言い合いに新八が巻き込まれた。
「俺がメガネかけたら、お前の存在意義なくね?」
「僕がいないとアンタらボケっ放しだろーがァ!!」
と騒いでいるうちに、万事屋に到着した。
「では、悪いが晴太を頼む」
花火大会の後、晴太だけは万事屋に泊まることになっていた。明日の早朝から、虫捕りに出掛ける約束もしていたのだ。
「任せるネ! 絶対ムシキングを捕まえて、ツッキーに見せてあげるヨ!」
胸を叩く神楽に、「それは楽しみじゃな」と僅かに微笑む。
神楽の言葉を受け、「神楽ちゃん、ムシキングってどんくらい大きいの?」と晴太が尋ねると、「そうアルな、定春よりずっと大きいネ!」と神楽は答える。「えええ!? そんな大きいのどうやって捕るの? 体も硬いし、結構強いんだよね?」「銀ちゃんが何とかしてくれるアル」と話している横で、新八が月詠に向き直る。
「月詠さんも泊まっていけばいいのに」
「わっちはこれから仕事じゃ」
「また仕事ですか」
「イベントの後は諍いや揉め事が増えるんでな」
「大変ですね」
自分を気遣う新八に、月詠はまた少しだけ表情を和らげる。
それを見て、ああ月詠さんもこういう顔を見せてくれるようになったなあと感慨深く新八は思う。
「おーい、さっさと風呂入って寝んぞー」
階段を途中まで登っていた銀時が、まだ下にいる子供達に声をかけた。
「いや、銀さんは月詠さんを送ってってあげてくださいよ」
「何で?」
「わっちは一人で帰れる」
新八の提案を受け入れない二人に、新八ははあとため息をつく。
「月詠さん、浴衣は少し動きづらそうじゃないですか。何かあった時、大変ですよ?」
今のところは何もないですけど、まだ油断は出来ませんよ、と新八は続ける。まだ下駄の鼻緒の件を気にしているらしい。
密かに「やはりいつものようには動けない」と思ってたことを指摘された月詠は返事に詰まった。
「浴衣にブーツ履いてる変な女なんか、誰も襲わねーって」
と云った銀時の額にクナイが刺さる。
「ホラ大丈夫そうじゃん」
「・・・銀さんは大丈夫そうじゃないですけど」
血が出てますよ、と冷静に指摘した後、
「判りました。じゃあ月詠さんに何かあった時は、銀さんが送るのを渋ったせいですって、日輪さんに伝えますね」
と言い放つと、銀時は身を乗り出した。
「ジャイアンにチクるスネ夫かてめーは! のび太のくせに生意気だぞ」
「元祖ダメガネアル。新八の大センパイネ」と神楽。
「のび太を馬鹿にするなァァァァ!! あれでも綾取りや射撃は得意なんだぞ!!」
「じゃあ特技がない分、新八のが下ネ」
「のび太以下!?」
また漫才のような言い合いが始まったのを見て、月詠の口から仲が良いなとフッと笑いが零れた。そして晴太に「迷惑かけぬようにな」と言い残し、まだ言い合いしている万事屋三人に
「では、わっちは帰る。今日は楽しかった。誘ってくれてありがとうな」
と声をかけてから、吉原に向かって歩き出した。
「オイコラ待て」
呼び止められて振り返る。
「しゃーねーから送ってってやるわ」
気だるげな顔で銀時が月詠の方に歩いてくる。
「・・・日輪が怖いか」
「・・・吉原の裏番怒らせる勇気はねーわ」
頭をがしがしと掻きながら答えると、月詠は面白そうに目を細め、
「太陽を裏番呼ばわりか。なかなかどうして、勇者でありんす」
そんな会話をしながら、二人は並んで歩き始めた。
残った三人は、二人の背中を見送った後、神楽と晴太は万事屋に、新八は自宅へと帰っていった。
続く
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「女王」でも「女帝」でも良かったんですが、私が日輪に対して「クラス委員長(生徒会長でも可)実は裏番」みたいなイメージ抱いているので、強行した。吉原で尤も敵に回してはいけない人。
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