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字が多い第三話。
ミステリっぽいミステリっぽい(笑)。
・・・・・・がっつりミステリですが、大丈夫ですか?
ここまでが・・・・・・事件編とでも云えばいいだろうか。
ミステリっぽいミステリっぽい(笑)。
・・・・・・がっつりミステリですが、大丈夫ですか?
ここまでが・・・・・・事件編とでも云えばいいだろうか。
死体の周囲に何か落ちていないかと捜してみたが、女の巾着とゴミ以外は特に見つからなかった。
「物盗りってセンでもねーみたいだな」
一旦二人はひのやに帰ってきた。そこで情報が集まってくるのを待っている。
「前の二件も金子には一切手を触れておらん」
壁に持たれかかり、月詠は煙管をふかす。
「今までのを詳しく話してみ?」
日輪が煎れてくれた濃い目の茶を啜りながら銀時が促すと、月詠はふうと細く吐き出した。
「ぬしに話して何になる?」
「銀さんがさくっと解決してやるよ」
月詠はしばらく茶を啜る銀時の横顔を見ていたが、「まあ話すだけタダじゃ」と呟いて、煙草盆に煙管をカンと打ちつけた。
「オイオイ、銀さんナメんなよ? 今ジャンプで事件解決してくれるのは万事屋かスケット団だけだからね?」
「ならスケット団に依頼してくる」
「何でだァァァァァ!!? あんなチェリー共にゃ吉原は刺激が強すぎるだろーが!」
下らない言い合いをしていても仕方ない。月詠は口を噤んで、新しい煙草を詰め、火をつけた。
「――最初の被害者が出たのは一ヶ月前じゃ」
何かが銀時の記憶に引っかかる。
「・・・・・・もしかして、花火行った次の日?」
月詠が目を丸くした。
「知ってたのか?」
「日輪からちらっと聞いた」
「殺された女も、花火大会に行っていたようじゃ」
一人目の被害者は、遊郭で働く遊女だった。発見されたのは、夜が白み始めた頃。ゴミを出そうと店の裏に足を運んだ婆が遺体を発見した。
報告を受け、月詠が現場に足を運ぶと、首に縄が巻きつき、胸を一刺しされた娘が仰向けに転がっていた。小花が散った白地の浴衣の胸から下が、血で赤く染まっている。長い髪が散らばり、煙管と下駄が少し離れた所に転がってた。
血は固まり、死後硬直が起こっていた。花火大会の後は仕事に行くはずだったのに、来てはいないので、おそらく9~10時頃が死亡推定時刻と見られた。
すぐさま情報が集められた。
娘は22歳。そこそこ人気のある遊女であった。前夜の花火大会には馴染みの客に誘われ、共に出かけた。
「でも、『仕事があるから』って、その場で別れたみたいです」と、娘と最後に会ったと思われる彼女の知人達が証言してくれた。それでも娘はとても機嫌が良さそうだったらしい。
すぐにその「共に花火大会に出かけた男」に話を聞いた。
男に女が殺されたことを伝えると、なかなか信じようとはしなかったが、それでもこちらの質問には答えた。曰く、「心当たりはないし、ましてや自分が手にかけたわけではない。花火が終わってから、自分はずっと仕事場である病院にいた」
裏付けは簡単に取れた。夜勤だった医者の男は、花火大会が終わったその足で病院に来、そのまま朝まで当直の仕事をこなしていた。途中姿が見えないこともあったが、10分以上不在ということはない。それでは吉原まで行って娘を殺して戻ってくるのは不可能だ。
次に、娘に恋人はいないか、娘の他の客でトラブルになっていた者はいなかったか、客の取り合いや私生活で揉めてる女はいなかったか等を調べてみたが、引っかかってこない。
「吉原での殺しの理由は殆どが痴情の縺れじゃ。そうでなければ金銭絡み。その二つではないとなると、本当に厄介じゃ」
はあ、とため息と共に白い煙を吐き出す。
「碌な手がかりが得られぬまま、その10日後に、二人目の被害者が出た」
「ちょ、タンマ。ゴメンやっぱいいや」
銀時が片手を挙げて話の腰を折った。
「はあ?」突然の降参宣言に月詠は眉を吊り上げる。「解決するんじゃなかったのか」
「いや、何かちょっと、思ってた以上に厄介そうだから・・・」
腰砕けになった銀時に向かって、月詠は「はあああ」と肩で大きくため息を吐いた。
「・・・最初からぬしには期待しておらん。話すことで、わっちが事件を整理してるだけじゃ」
勝手に続けるぞ、と云い置いて、月詠は二人目の被害者の話を始めた。
二人目は高級キャバクラで働く女だった。歳は29歳とそのキャバクラでは最年長だったが、落ち着いた雰囲気と妖艶さが人気で、ナンバー3だった。
この女は、地上に出かけようとエレベーターに向かう途中に凶行に遭ったらしい。前日、「休みを貰ったから、地上に行って買い物をしてくる」と仕事仲間に伝えていた。
この女も、やはり路地裏の、殆ど人が通らない所でうつ伏せに倒れていた。死後硬直が全身に及んでいたので、おそらく半日近く気付かれていない。死亡推定時刻は広く見て午前8~12時頃。
気付かれなかったのは、買い物に一人で行く予定だったからだろう。連れがいたら、もう少し早く発見されていた可能性がある。事実、買い物に行くことを聞いた仲間が「デート?」と冷やかすと、「あちき一人じゃ。ナンパでもされてくるわ」と笑っていたらしい。
女の首に縄が巻かれている上に胸を一突き、という様相に、月詠たち百華はざわついた。10日前の娘と同じ手口だ。たまたまというには、縄といい胸の傷といい想定される得物の大きさといい、酷似しすぎている。
同一犯なら、突破口を開く情報が現れるかもしれない、と思いつつ、百華は情報をかき集めた。
しかし、やはりこれといった有力な情報が出てこない。
そりがあわないとかライバル心とかで、被害者とよくいざこざがあったナンバー四の女にはアリバイがあった。恋人と一泊二日で旅行に行っている最中で、その時間はちょうど旅館を出発した頃だった。旅館の女将が間違いなく見送ったと言い切った。
被害者の女に特定の恋人はおらず、過度に言い寄っていた男もいない。殺人に発展しそうな恋愛トラブルはやはりなかった。
「始めに殺された娘とも接点がないか、共通の知人・友人はおらぬか、徹底的に調べたんじゃがな、これっぽっちも見つからん。じゃから無差別殺人ではないかと考えたんじゃ」
目撃者も全く現れないし、もう殆どお手上げ状態で、出来ることといったら見回りを強化することくらい。シフトを組み直し、常に何人もで見回りを続けた。疲労はあったが、おかげで新しい犠牲者が出ず、もしかしたら、やはり無差別ではなく二人だけを狙った事件なのでは、と少し安堵していたら。
「・・・この様じゃ」
ついに三人目が出た。
「――見回りをしていた部下が、別の曲者を見つけたんじゃ。わっちらがずっと追っている者なのじゃが、鼠輩のくせに逃げ足が速くてな。ヤツを捕まえるのに気をとられて、その隙に殺られてしまいんした」
新たな犠牲者で、判明していることは、歳は20代半ばから後半。吉原では数少ない飯屋の若女将だった。元は遊女だったが、店を出した時に、そちらの方面は綺麗さっぱり足を洗ったらしい。
その若女将も、今日は店を閉めて地上に外出の予定だったらしい。
「容疑者の割り出しはこれからじゃろうが・・・・・・」
今度こそ何か手がかりになるものが出てくれば良いが、と月詠はため息を吐く。
銀時が徐に立ち上がった。
「――ちょっと、マガジンかサンデー行って、金田一かコナン連れてくるわ」
「アホか! ぬし、ジャンプ主人公の矜持すら捨てたか!?」
月詠は銀時の首根っこをむんずと掴んで止める。
「いやいやだって、結構マジじゃん? ちょっとジャンル間違えてるみたいじゃん? ここ『銀魂』だよ? SF人情ギャグ漫画だよ?」
「だからって、他誌の主役連れて来てどうする!」
「コナンならさ、コナンの台詞にあわせて、俺が口パクしたら問題なくね?」
「大アリじゃ!!」
月詠は力任せに銀時を椅子の方に叩きつける。
椅子と共にひっくり返った銀時は「いてて」と頭を擦りながら起き上がり、
「名探偵なしで解決できんのか?」
「するしかないじゃろ」
不機嫌そうに月詠は返答する。
「全く」椅子を戻して座り直し、「殺人事件っつーのは、名探偵がいるから起きるモンなんだぞ? 悟空だって似たよーなことブルマに云われたって云ってたじゃん」
「確かに名探偵や悟空は疫病神のようじゃが、それは話の都合上じゃ。名探偵がおらぬとも事件は起きる。一度限りの素人探偵はそれこそ星の数ほどおる」
はー、やれやれ、と頭をガシガシ掻いた銀時は、ひのやの奥に向かって声をあげる。
「日輪ー。善哉ねえのここ? 何なら餅入れなくていいから」
「そんな餡だけのものを食べたら糖尿病にまた一歩近付くぞ」
「糖分取らねーと頭が回転しねーだろーが」
「ぬしの頭は何もしなくてもくるくるしておる」
「そりゃ天パだァァァァ!!」
立ち上がった銀時の後ろで「ここに置いとくよ」と日輪がコトリと置いた。
「・・・・・・ねえここ団子しかないの? せめて餡子のっけてよ」
と文句を云いながらも、銀時は一串手に取り、ひとつ食べる。
「月詠もホラ、お茶を飲んで少し落ち着きな」
日輪に差し出され、月詠は「すまん」と受け取った。熱い濃い目の茶を息を吹きかけてから少し飲む。熱い液体が喉を滑り落ちていくと、ほう、と息が漏れる。
「とりあえず、判ってることを整理するか」
「そうじゃな」
月詠は頷いて、再び煙管をくゆらせ始めた。
「被害者は全員吉原で働く20代の女じゃ」
「少なくとも、『誰でもいいから』ってワケじゃなさそーだな」
「ああ。しかも三人とも地上に外出する前後を狙われておる」
「それは何故なんだろうね? たまたまなのかねえ?」
茶と団子を運んできた日輪も、盆を膝に置いたまま話に加わった。
う~ん、と二人は考える。
「吉原が開放されてから、地上に出かける女達の数は決して少なくない。その中で、あの三人が狙われたのは何故じゃ・・・?」
「他に共通点はないのかい?」
「そうじゃな・・・」
ふう、と白い煙を吐く月詠を見て、銀時は尋ねる。
「オイ、二人目は煙管吸わねーのか?」
月詠は二~三度瞬きをした。
「――吸う。現場にブランド物の煙管が落ちていた」
煙管が共通項目・・・と月詠は口の中で呟く。
「だけどさ」日輪が半ば呆れ声で「吉原に煙管を吸う女がどれだけいると思ってんのさ。まだまだ絞れた感じはしないよ」
う~ん、と二人は更に難しい顔をして考え込む。
「犯行の手口から推測できる犯人像は、何かないのかい?」
「・・・ありゃ素人の手口だな」
「わっちもそう思う」
銀時の見解に月詠も同意を示す。
「得物をふたつ使っておる。それに、胸の傷はどれも心臓を正確に狙えていなかった」
「素人さんかい。面倒だね。他には?」
う~ん、と三度唸る顔には汗か。
「あの手口じゃ男か女かも判らねーし、利き手も判らねェ」
「証拠を残さない周到な下手人じゃ」
「なんだい、判らないことだらけなんだね」
日輪の言葉に、二人は揃って肩を落とす。
「オイ、とりあえず、女の首を絞めるのが好きなドSがいなかったか、聞き込みさせとけ」
そうじゃな、と頷いた後、月詠は眉を寄せて、ふう、と吐き出した。
「見回りを強化し、外出時は一人では出かけぬよう触れ回っておこう」
銀時が立ち上がった。歩き出す背中を、日輪と月詠は目で追う。
「俺もヒマな時は吉原ブラついてやるわ」
「そうね。吉原の救世主様がいてくれると、皆安心するわ」
にっこり笑った日輪に、銀時は振り返らぬまま片手を挙げて見せた。
それから一週間。
警戒の為、百華があからさまに街を歩いていたり、呼びかけが効いて何人かで一緒に外出をしたりと、可能な限りの自衛が行われていた。銀時も足繁く吉原に来、万事屋に新八と神楽だけでは手に負えない依頼が入ると、二人に連れて行かれる日々を送っていた。新八や神楽も、昼間時々見回りに吉原に来ていた。
「これ以上被害者が出ないなら、このままでも良くね?」
依頼が来たということで、万事屋の面々は依頼人との待ち合わせ場所へと向かっていた。
「何云ってるんですか銀さん。全然良くないですよ」
「そうアル。ツッキーがホントに過労死するネ」
ほくほく顔の銀時を、新八と神楽が諌めた。
百華の頭はこれ以上の被害は出すまいと、殆ど不眠不休で見回りしている。少し休めと云っても、大丈夫じゃと言い張るか、休んでいる間に被害が出たら悔やみきれんと云って聞かないのだ。
「月詠さん、顔色も悪いし、少し痩せたよね」
「死神太夫が死神に連れて行かれそうアル。間接的被害者になりそうネ」
「ちょっと、不吉なこと云わないでよ神楽ちゃん」
心配する二人に対し、銀時は手の中の紙切れをヒラヒラさせる。
「吉原の女達は外出やめないくらい図太いのにな」
外出時に襲われるという共通点を聞いた吉原の女達は、外出を控えたりせず、そこらをふらついている銀時を捕まえては依頼をした。「門まで送って」「家まで送って」と。吉原の救世主が一緒ならばこれ以上ないほど心強い。ハイハイ、と護衛をする銀時に、女達はささやかにお礼をくれた。サービス券だったり、地上で買った甘味だったり。今日はスイーツバイキングのタダ券を貰ったので、上機嫌なのだ。
「いや~、疲れた時は甘いモンだよな。依頼済ませたら、コレ食べに行くか」
「それはいいですけど・・・」
「今度は焼肉食べ放題のタダ券も貰って来いヨ」
と歩みを進めていると、ちょうど表に出てきた小間物屋の主が「おや、銀さん」と声をかけた。
「先々月は助かったよ。また何かあったら頼むね」
「出来れば、取り返しが付かなくなる前に依頼してくれる?」
銀時の注文に、ハハハと笑って「その分依頼料に色つけたじゃない」と付け加えた主は手をぱちんと叩いて、
「そうそう。いい簪入ったんだけど、どう?」
「今度は買えっつーんだろ。俺今フトコロが寂しいの。また今度な」
と片手をあげてから、再び歩き出した三歩目。
突然銀時はぴたりと足を止めた。後ろを歩きだしていた新八はぶつかりそうになる。
「ぅわっ。急に止まらないで下さいよ。どうしたんですか銀さん?」
「――電話」
「はい?」
呟きを聞き返した新八に、銀時は猛烈な勢いで振り返った。
「電話ッ。どこだ!?」
「銀ちゃん、あそこにあるヨ」
銀時は神楽が示した電話ボックスに駆け寄る。新八と神楽は、顔を合わせてから彼の後を追った。
電話ボックスの中で受話器を持ち上げた銀時のボタンを押す指がウロウロしていた。
「ああクソッ、何番だっけ?」
「どこにかけようとしてるんですか?」
追いついた新八が尋ねる。
「ひのやだ!」
新八から教えられた番号を回す。発信音が二回したところで、「はい」と日輪の声がした。
「日輪? 俺だけど、月詠いる?」
「月詠は今仮眠とってて。そろそろ起きて来ると思うけど・・・。あ、月詠」
話していたら、月詠が起きてきたらしい。「銀さんから電話だよ」と代わる声が遠くに聞こえる。
「何じゃ?」
「オイ、一人目二人目の被害者、簪挿してたか?」
「簪?」
問われて死体発見時の有様を思い返してみた。その、周囲も。
月詠の眉間に皺が寄る。
「――ありんせん。挿しておらぬし、落ちてもいなかった」
「俺が見た三人目の時も見当たらない。まさか、外出するのに、三人が三人揃って、頭を何も飾ってないってこたぁないんじゃねーか?」
「下手人が持ち去ったというのか?」
「可能性はあるだろ」
「調べてみよう」
すまんな、と残して、月詠は通話を切った。
予想が当たり、それを伝えられた銀時は、一息ついて受話器を戻した。
「銀さん、簪が見つかってないんですか?」
電話のやり取りを聞いて、新八が尋ねる。
「そうらしいな。簪じゃない何かかもしれねーが」
「凄いじゃないですか! これで全員同じ簪でも挿していたら、次の被害を防ぐことができます」
「でも、何で持ち去ったアルか?」
と神楽が不思議そうに首を少し傾げる。
「自分の手がかりになるよーなモンだったからか、同じ簪なら、それ挿してる女を狙ってるってバレねーようにするためだろ」
「そうアルか! 簪が欲しくて殺してたんじゃないネ」
「そんなん盗むか強奪するかすりゃいーだろォォォ!! どんだけ短絡的で衝動的な犯行理由だァァァァァ!!」
と騒ぎながら、依頼人のところに向かってまた歩き出した。
「頭・・・」
部下に聞き込みに行かせて、二時間もしないうちに上がってきた報告書に目を通した月詠は、煙管を煙草盆に叩きつけた。ガンッと響いた音に思わず百華たちはびくっと肩を竦めた。
「・・・間違いないようじゃな」
三人とも、大きさは若干異なるが、同じ花を模した簪をしている。
「すぐに吉原中に伝えよ。この簪の使用は禁止じゃ」
はっ、と短く返事をして、部下達は散っていく。
「さて、と」
煙管を袂に仕舞うと、月詠は立ち上がった。
「おめかしをしてみるか」
口調はのんびりしていたが、目つきは鋭く冷たかった。
「あ~・・・。やっと帰ってこれた・・・」
帰宅するなり銀時はソファに倒れこんだ。
お茶でも入れましょうか、と云って新八が台所に向かう。
依頼をちゃちゃっと済ませてスイーツバイキングのはずが、何だかんだで結局三日も拘束されてしまった。
「結局お蔵入りになったしよォ」
「・・・仕方ないですよ。あの出来じゃあ」
と云いながら、新八は湯飲みをテーブルに置く。
「アピールできるモンがないのに、PRビデオ作れってのが無理なんだよ。黒〇徹子が芸人にする無茶振りレベルだよ」
まだソファでぐだぐだ愚痴っている銀時を無視し、お茶を飲んだ新八は「そういえば」と話題を変えた。
「吉原はどうなってるんでしょうね? 犯人、捕まえましたかね?」
「あー・・・・・・」
一日目の夜に一度電話は入れてみた。依頼が入ってしばらく行けそうにないという連絡と、簪どうだった?という結果報告を聞くためだ。月詠は、簪の件はまだ報告待ちだが、それが判明すれば似たものを使わぬよう触れ回るから、来なくとも問題ない、と答えた。
「・・・電話してみるか」
むくりと銀時が起き上がり、自分の机に向かう。
もし、全員同じ簪だったとしたら。ぺたぺたと歩きながら、ふと犯行動機が気になった。
何でその簪挿してる女を狙ったんだ?
椅子に座って受話器を持ち上げた所で、神楽が「銀ちゃん」と弾んだ声で呼んだ。
「皆が外で遊んでたから、私も一緒に遊んでくるネ!」
と言い残し、傘を持って玄関を飛び出して行ってしまった。
「・・・子供は無駄に元気だねえ」
「また友達と外で一緒に遊べるようになったんですから、いいことじゃないですか」
しばらく皆外で遊ばなかったんですから、と新八が続けた。
「あー・・・」と生返事をして、銀時は、ん?と気付いた。
「・・・・・・幼女殺しが続いてたから、外で遊ばなくなってたんだっけ?」
「そうですよ」
「じゃ、犯人捕まったのか?」
「いえ、まだです」新八は首を振る。「ですが、最近起きてないんです。だから、皆外に出だしたんじゃないですか」
そういえば、最近ニュースで聞いていない。以前は連日報道していたのに。
銀時はゆっくりと受話器を戻した。頭の隅で何か重たいものが動く感じがする。
「――最後に起きたのはいつだった?」
「皆で行った花火大会の日ですよ。一ヶ月以上前ですね」
五人目です、という新八の言葉は銀時の耳には入っていない。
「――どこで見つかったんだっけ?」
「ええと、確か・・・」と新八が答えたのは、とある町の神社。「吉原行きエレベーターからそう遠くないところですね」
銀時は顎に手をやり、今の事実を頭の中で転がし始めた。
花火大会の時まで続いていた事件がぴたりとやみ、代わりに吉原で事件が起こり始めた。
・・・・・・たまたま、か?
関係ない事柄を結びつけて、あさっての方向に考え進めてるだけか?
「銀さん?」
突然考え込み出した銀時に、新八が不思議に思って声をかけた。それで我に返り、銀時は「ああ」と再び受話器をとった。
事件編終 解決編へ
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
あそこ団子しかないのでしょうか(笑)?
「物盗りってセンでもねーみたいだな」
一旦二人はひのやに帰ってきた。そこで情報が集まってくるのを待っている。
「前の二件も金子には一切手を触れておらん」
壁に持たれかかり、月詠は煙管をふかす。
「今までのを詳しく話してみ?」
日輪が煎れてくれた濃い目の茶を啜りながら銀時が促すと、月詠はふうと細く吐き出した。
「ぬしに話して何になる?」
「銀さんがさくっと解決してやるよ」
月詠はしばらく茶を啜る銀時の横顔を見ていたが、「まあ話すだけタダじゃ」と呟いて、煙草盆に煙管をカンと打ちつけた。
「オイオイ、銀さんナメんなよ? 今ジャンプで事件解決してくれるのは万事屋かスケット団だけだからね?」
「ならスケット団に依頼してくる」
「何でだァァァァァ!!? あんなチェリー共にゃ吉原は刺激が強すぎるだろーが!」
下らない言い合いをしていても仕方ない。月詠は口を噤んで、新しい煙草を詰め、火をつけた。
「――最初の被害者が出たのは一ヶ月前じゃ」
何かが銀時の記憶に引っかかる。
「・・・・・・もしかして、花火行った次の日?」
月詠が目を丸くした。
「知ってたのか?」
「日輪からちらっと聞いた」
「殺された女も、花火大会に行っていたようじゃ」
一人目の被害者は、遊郭で働く遊女だった。発見されたのは、夜が白み始めた頃。ゴミを出そうと店の裏に足を運んだ婆が遺体を発見した。
報告を受け、月詠が現場に足を運ぶと、首に縄が巻きつき、胸を一刺しされた娘が仰向けに転がっていた。小花が散った白地の浴衣の胸から下が、血で赤く染まっている。長い髪が散らばり、煙管と下駄が少し離れた所に転がってた。
血は固まり、死後硬直が起こっていた。花火大会の後は仕事に行くはずだったのに、来てはいないので、おそらく9~10時頃が死亡推定時刻と見られた。
すぐさま情報が集められた。
娘は22歳。そこそこ人気のある遊女であった。前夜の花火大会には馴染みの客に誘われ、共に出かけた。
「でも、『仕事があるから』って、その場で別れたみたいです」と、娘と最後に会ったと思われる彼女の知人達が証言してくれた。それでも娘はとても機嫌が良さそうだったらしい。
すぐにその「共に花火大会に出かけた男」に話を聞いた。
男に女が殺されたことを伝えると、なかなか信じようとはしなかったが、それでもこちらの質問には答えた。曰く、「心当たりはないし、ましてや自分が手にかけたわけではない。花火が終わってから、自分はずっと仕事場である病院にいた」
裏付けは簡単に取れた。夜勤だった医者の男は、花火大会が終わったその足で病院に来、そのまま朝まで当直の仕事をこなしていた。途中姿が見えないこともあったが、10分以上不在ということはない。それでは吉原まで行って娘を殺して戻ってくるのは不可能だ。
次に、娘に恋人はいないか、娘の他の客でトラブルになっていた者はいなかったか、客の取り合いや私生活で揉めてる女はいなかったか等を調べてみたが、引っかかってこない。
「吉原での殺しの理由は殆どが痴情の縺れじゃ。そうでなければ金銭絡み。その二つではないとなると、本当に厄介じゃ」
はあ、とため息と共に白い煙を吐き出す。
「碌な手がかりが得られぬまま、その10日後に、二人目の被害者が出た」
「ちょ、タンマ。ゴメンやっぱいいや」
銀時が片手を挙げて話の腰を折った。
「はあ?」突然の降参宣言に月詠は眉を吊り上げる。「解決するんじゃなかったのか」
「いや、何かちょっと、思ってた以上に厄介そうだから・・・」
腰砕けになった銀時に向かって、月詠は「はあああ」と肩で大きくため息を吐いた。
「・・・最初からぬしには期待しておらん。話すことで、わっちが事件を整理してるだけじゃ」
勝手に続けるぞ、と云い置いて、月詠は二人目の被害者の話を始めた。
二人目は高級キャバクラで働く女だった。歳は29歳とそのキャバクラでは最年長だったが、落ち着いた雰囲気と妖艶さが人気で、ナンバー3だった。
この女は、地上に出かけようとエレベーターに向かう途中に凶行に遭ったらしい。前日、「休みを貰ったから、地上に行って買い物をしてくる」と仕事仲間に伝えていた。
この女も、やはり路地裏の、殆ど人が通らない所でうつ伏せに倒れていた。死後硬直が全身に及んでいたので、おそらく半日近く気付かれていない。死亡推定時刻は広く見て午前8~12時頃。
気付かれなかったのは、買い物に一人で行く予定だったからだろう。連れがいたら、もう少し早く発見されていた可能性がある。事実、買い物に行くことを聞いた仲間が「デート?」と冷やかすと、「あちき一人じゃ。ナンパでもされてくるわ」と笑っていたらしい。
女の首に縄が巻かれている上に胸を一突き、という様相に、月詠たち百華はざわついた。10日前の娘と同じ手口だ。たまたまというには、縄といい胸の傷といい想定される得物の大きさといい、酷似しすぎている。
同一犯なら、突破口を開く情報が現れるかもしれない、と思いつつ、百華は情報をかき集めた。
しかし、やはりこれといった有力な情報が出てこない。
そりがあわないとかライバル心とかで、被害者とよくいざこざがあったナンバー四の女にはアリバイがあった。恋人と一泊二日で旅行に行っている最中で、その時間はちょうど旅館を出発した頃だった。旅館の女将が間違いなく見送ったと言い切った。
被害者の女に特定の恋人はおらず、過度に言い寄っていた男もいない。殺人に発展しそうな恋愛トラブルはやはりなかった。
「始めに殺された娘とも接点がないか、共通の知人・友人はおらぬか、徹底的に調べたんじゃがな、これっぽっちも見つからん。じゃから無差別殺人ではないかと考えたんじゃ」
目撃者も全く現れないし、もう殆どお手上げ状態で、出来ることといったら見回りを強化することくらい。シフトを組み直し、常に何人もで見回りを続けた。疲労はあったが、おかげで新しい犠牲者が出ず、もしかしたら、やはり無差別ではなく二人だけを狙った事件なのでは、と少し安堵していたら。
「・・・この様じゃ」
ついに三人目が出た。
「――見回りをしていた部下が、別の曲者を見つけたんじゃ。わっちらがずっと追っている者なのじゃが、鼠輩のくせに逃げ足が速くてな。ヤツを捕まえるのに気をとられて、その隙に殺られてしまいんした」
新たな犠牲者で、判明していることは、歳は20代半ばから後半。吉原では数少ない飯屋の若女将だった。元は遊女だったが、店を出した時に、そちらの方面は綺麗さっぱり足を洗ったらしい。
その若女将も、今日は店を閉めて地上に外出の予定だったらしい。
「容疑者の割り出しはこれからじゃろうが・・・・・・」
今度こそ何か手がかりになるものが出てくれば良いが、と月詠はため息を吐く。
銀時が徐に立ち上がった。
「――ちょっと、マガジンかサンデー行って、金田一かコナン連れてくるわ」
「アホか! ぬし、ジャンプ主人公の矜持すら捨てたか!?」
月詠は銀時の首根っこをむんずと掴んで止める。
「いやいやだって、結構マジじゃん? ちょっとジャンル間違えてるみたいじゃん? ここ『銀魂』だよ? SF人情ギャグ漫画だよ?」
「だからって、他誌の主役連れて来てどうする!」
「コナンならさ、コナンの台詞にあわせて、俺が口パクしたら問題なくね?」
「大アリじゃ!!」
月詠は力任せに銀時を椅子の方に叩きつける。
椅子と共にひっくり返った銀時は「いてて」と頭を擦りながら起き上がり、
「名探偵なしで解決できんのか?」
「するしかないじゃろ」
不機嫌そうに月詠は返答する。
「全く」椅子を戻して座り直し、「殺人事件っつーのは、名探偵がいるから起きるモンなんだぞ? 悟空だって似たよーなことブルマに云われたって云ってたじゃん」
「確かに名探偵や悟空は疫病神のようじゃが、それは話の都合上じゃ。名探偵がおらぬとも事件は起きる。一度限りの素人探偵はそれこそ星の数ほどおる」
はー、やれやれ、と頭をガシガシ掻いた銀時は、ひのやの奥に向かって声をあげる。
「日輪ー。善哉ねえのここ? 何なら餅入れなくていいから」
「そんな餡だけのものを食べたら糖尿病にまた一歩近付くぞ」
「糖分取らねーと頭が回転しねーだろーが」
「ぬしの頭は何もしなくてもくるくるしておる」
「そりゃ天パだァァァァ!!」
立ち上がった銀時の後ろで「ここに置いとくよ」と日輪がコトリと置いた。
「・・・・・・ねえここ団子しかないの? せめて餡子のっけてよ」
と文句を云いながらも、銀時は一串手に取り、ひとつ食べる。
「月詠もホラ、お茶を飲んで少し落ち着きな」
日輪に差し出され、月詠は「すまん」と受け取った。熱い濃い目の茶を息を吹きかけてから少し飲む。熱い液体が喉を滑り落ちていくと、ほう、と息が漏れる。
「とりあえず、判ってることを整理するか」
「そうじゃな」
月詠は頷いて、再び煙管をくゆらせ始めた。
「被害者は全員吉原で働く20代の女じゃ」
「少なくとも、『誰でもいいから』ってワケじゃなさそーだな」
「ああ。しかも三人とも地上に外出する前後を狙われておる」
「それは何故なんだろうね? たまたまなのかねえ?」
茶と団子を運んできた日輪も、盆を膝に置いたまま話に加わった。
う~ん、と二人は考える。
「吉原が開放されてから、地上に出かける女達の数は決して少なくない。その中で、あの三人が狙われたのは何故じゃ・・・?」
「他に共通点はないのかい?」
「そうじゃな・・・」
ふう、と白い煙を吐く月詠を見て、銀時は尋ねる。
「オイ、二人目は煙管吸わねーのか?」
月詠は二~三度瞬きをした。
「――吸う。現場にブランド物の煙管が落ちていた」
煙管が共通項目・・・と月詠は口の中で呟く。
「だけどさ」日輪が半ば呆れ声で「吉原に煙管を吸う女がどれだけいると思ってんのさ。まだまだ絞れた感じはしないよ」
う~ん、と二人は更に難しい顔をして考え込む。
「犯行の手口から推測できる犯人像は、何かないのかい?」
「・・・ありゃ素人の手口だな」
「わっちもそう思う」
銀時の見解に月詠も同意を示す。
「得物をふたつ使っておる。それに、胸の傷はどれも心臓を正確に狙えていなかった」
「素人さんかい。面倒だね。他には?」
う~ん、と三度唸る顔には汗か。
「あの手口じゃ男か女かも判らねーし、利き手も判らねェ」
「証拠を残さない周到な下手人じゃ」
「なんだい、判らないことだらけなんだね」
日輪の言葉に、二人は揃って肩を落とす。
「オイ、とりあえず、女の首を絞めるのが好きなドSがいなかったか、聞き込みさせとけ」
そうじゃな、と頷いた後、月詠は眉を寄せて、ふう、と吐き出した。
「見回りを強化し、外出時は一人では出かけぬよう触れ回っておこう」
銀時が立ち上がった。歩き出す背中を、日輪と月詠は目で追う。
「俺もヒマな時は吉原ブラついてやるわ」
「そうね。吉原の救世主様がいてくれると、皆安心するわ」
にっこり笑った日輪に、銀時は振り返らぬまま片手を挙げて見せた。
それから一週間。
警戒の為、百華があからさまに街を歩いていたり、呼びかけが効いて何人かで一緒に外出をしたりと、可能な限りの自衛が行われていた。銀時も足繁く吉原に来、万事屋に新八と神楽だけでは手に負えない依頼が入ると、二人に連れて行かれる日々を送っていた。新八や神楽も、昼間時々見回りに吉原に来ていた。
「これ以上被害者が出ないなら、このままでも良くね?」
依頼が来たということで、万事屋の面々は依頼人との待ち合わせ場所へと向かっていた。
「何云ってるんですか銀さん。全然良くないですよ」
「そうアル。ツッキーがホントに過労死するネ」
ほくほく顔の銀時を、新八と神楽が諌めた。
百華の頭はこれ以上の被害は出すまいと、殆ど不眠不休で見回りしている。少し休めと云っても、大丈夫じゃと言い張るか、休んでいる間に被害が出たら悔やみきれんと云って聞かないのだ。
「月詠さん、顔色も悪いし、少し痩せたよね」
「死神太夫が死神に連れて行かれそうアル。間接的被害者になりそうネ」
「ちょっと、不吉なこと云わないでよ神楽ちゃん」
心配する二人に対し、銀時は手の中の紙切れをヒラヒラさせる。
「吉原の女達は外出やめないくらい図太いのにな」
外出時に襲われるという共通点を聞いた吉原の女達は、外出を控えたりせず、そこらをふらついている銀時を捕まえては依頼をした。「門まで送って」「家まで送って」と。吉原の救世主が一緒ならばこれ以上ないほど心強い。ハイハイ、と護衛をする銀時に、女達はささやかにお礼をくれた。サービス券だったり、地上で買った甘味だったり。今日はスイーツバイキングのタダ券を貰ったので、上機嫌なのだ。
「いや~、疲れた時は甘いモンだよな。依頼済ませたら、コレ食べに行くか」
「それはいいですけど・・・」
「今度は焼肉食べ放題のタダ券も貰って来いヨ」
と歩みを進めていると、ちょうど表に出てきた小間物屋の主が「おや、銀さん」と声をかけた。
「先々月は助かったよ。また何かあったら頼むね」
「出来れば、取り返しが付かなくなる前に依頼してくれる?」
銀時の注文に、ハハハと笑って「その分依頼料に色つけたじゃない」と付け加えた主は手をぱちんと叩いて、
「そうそう。いい簪入ったんだけど、どう?」
「今度は買えっつーんだろ。俺今フトコロが寂しいの。また今度な」
と片手をあげてから、再び歩き出した三歩目。
突然銀時はぴたりと足を止めた。後ろを歩きだしていた新八はぶつかりそうになる。
「ぅわっ。急に止まらないで下さいよ。どうしたんですか銀さん?」
「――電話」
「はい?」
呟きを聞き返した新八に、銀時は猛烈な勢いで振り返った。
「電話ッ。どこだ!?」
「銀ちゃん、あそこにあるヨ」
銀時は神楽が示した電話ボックスに駆け寄る。新八と神楽は、顔を合わせてから彼の後を追った。
電話ボックスの中で受話器を持ち上げた銀時のボタンを押す指がウロウロしていた。
「ああクソッ、何番だっけ?」
「どこにかけようとしてるんですか?」
追いついた新八が尋ねる。
「ひのやだ!」
新八から教えられた番号を回す。発信音が二回したところで、「はい」と日輪の声がした。
「日輪? 俺だけど、月詠いる?」
「月詠は今仮眠とってて。そろそろ起きて来ると思うけど・・・。あ、月詠」
話していたら、月詠が起きてきたらしい。「銀さんから電話だよ」と代わる声が遠くに聞こえる。
「何じゃ?」
「オイ、一人目二人目の被害者、簪挿してたか?」
「簪?」
問われて死体発見時の有様を思い返してみた。その、周囲も。
月詠の眉間に皺が寄る。
「――ありんせん。挿しておらぬし、落ちてもいなかった」
「俺が見た三人目の時も見当たらない。まさか、外出するのに、三人が三人揃って、頭を何も飾ってないってこたぁないんじゃねーか?」
「下手人が持ち去ったというのか?」
「可能性はあるだろ」
「調べてみよう」
すまんな、と残して、月詠は通話を切った。
予想が当たり、それを伝えられた銀時は、一息ついて受話器を戻した。
「銀さん、簪が見つかってないんですか?」
電話のやり取りを聞いて、新八が尋ねる。
「そうらしいな。簪じゃない何かかもしれねーが」
「凄いじゃないですか! これで全員同じ簪でも挿していたら、次の被害を防ぐことができます」
「でも、何で持ち去ったアルか?」
と神楽が不思議そうに首を少し傾げる。
「自分の手がかりになるよーなモンだったからか、同じ簪なら、それ挿してる女を狙ってるってバレねーようにするためだろ」
「そうアルか! 簪が欲しくて殺してたんじゃないネ」
「そんなん盗むか強奪するかすりゃいーだろォォォ!! どんだけ短絡的で衝動的な犯行理由だァァァァァ!!」
と騒ぎながら、依頼人のところに向かってまた歩き出した。
「頭・・・」
部下に聞き込みに行かせて、二時間もしないうちに上がってきた報告書に目を通した月詠は、煙管を煙草盆に叩きつけた。ガンッと響いた音に思わず百華たちはびくっと肩を竦めた。
「・・・間違いないようじゃな」
三人とも、大きさは若干異なるが、同じ花を模した簪をしている。
「すぐに吉原中に伝えよ。この簪の使用は禁止じゃ」
はっ、と短く返事をして、部下達は散っていく。
「さて、と」
煙管を袂に仕舞うと、月詠は立ち上がった。
「おめかしをしてみるか」
口調はのんびりしていたが、目つきは鋭く冷たかった。
「あ~・・・。やっと帰ってこれた・・・」
帰宅するなり銀時はソファに倒れこんだ。
お茶でも入れましょうか、と云って新八が台所に向かう。
依頼をちゃちゃっと済ませてスイーツバイキングのはずが、何だかんだで結局三日も拘束されてしまった。
「結局お蔵入りになったしよォ」
「・・・仕方ないですよ。あの出来じゃあ」
と云いながら、新八は湯飲みをテーブルに置く。
「アピールできるモンがないのに、PRビデオ作れってのが無理なんだよ。黒〇徹子が芸人にする無茶振りレベルだよ」
まだソファでぐだぐだ愚痴っている銀時を無視し、お茶を飲んだ新八は「そういえば」と話題を変えた。
「吉原はどうなってるんでしょうね? 犯人、捕まえましたかね?」
「あー・・・・・・」
一日目の夜に一度電話は入れてみた。依頼が入ってしばらく行けそうにないという連絡と、簪どうだった?という結果報告を聞くためだ。月詠は、簪の件はまだ報告待ちだが、それが判明すれば似たものを使わぬよう触れ回るから、来なくとも問題ない、と答えた。
「・・・電話してみるか」
むくりと銀時が起き上がり、自分の机に向かう。
もし、全員同じ簪だったとしたら。ぺたぺたと歩きながら、ふと犯行動機が気になった。
何でその簪挿してる女を狙ったんだ?
椅子に座って受話器を持ち上げた所で、神楽が「銀ちゃん」と弾んだ声で呼んだ。
「皆が外で遊んでたから、私も一緒に遊んでくるネ!」
と言い残し、傘を持って玄関を飛び出して行ってしまった。
「・・・子供は無駄に元気だねえ」
「また友達と外で一緒に遊べるようになったんですから、いいことじゃないですか」
しばらく皆外で遊ばなかったんですから、と新八が続けた。
「あー・・・」と生返事をして、銀時は、ん?と気付いた。
「・・・・・・幼女殺しが続いてたから、外で遊ばなくなってたんだっけ?」
「そうですよ」
「じゃ、犯人捕まったのか?」
「いえ、まだです」新八は首を振る。「ですが、最近起きてないんです。だから、皆外に出だしたんじゃないですか」
そういえば、最近ニュースで聞いていない。以前は連日報道していたのに。
銀時はゆっくりと受話器を戻した。頭の隅で何か重たいものが動く感じがする。
「――最後に起きたのはいつだった?」
「皆で行った花火大会の日ですよ。一ヶ月以上前ですね」
五人目です、という新八の言葉は銀時の耳には入っていない。
「――どこで見つかったんだっけ?」
「ええと、確か・・・」と新八が答えたのは、とある町の神社。「吉原行きエレベーターからそう遠くないところですね」
銀時は顎に手をやり、今の事実を頭の中で転がし始めた。
花火大会の時まで続いていた事件がぴたりとやみ、代わりに吉原で事件が起こり始めた。
・・・・・・たまたま、か?
関係ない事柄を結びつけて、あさっての方向に考え進めてるだけか?
「銀さん?」
突然考え込み出した銀時に、新八が不思議に思って声をかけた。それで我に返り、銀時は「ああ」と再び受話器をとった。
事件編終 解決編へ
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あそこ団子しかないのでしょうか(笑)?
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