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緑父の話。ほんのちょっと昔話。
「親子熊」ってことで、父もシンケングリーンだったと仮定しての話。
「親子熊」ってことで、父もシンケングリーンだったと仮定しての話。
父の口調が変でもスルーで。変なのは判るんだが直せない…。
思ったより長くなったけど、イケるぜ!て方は、「読んでみる」からどうぞお願いします。
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「…っりゃあ!」
振り下ろされた太刀を掬い上げるようにして弾き、そのまま袈裟懸けに切り裂いた。ナナシがどうっと倒れる。
「…これで全部か」
シンケンマルを肩に担ぎ、辺りを見回す。足元に倒れ、消え行くナナシしかいない。
「んじゃま、連絡しましょうかね」
と独り言を呟いて、蔵人はショドウフォンを取り出した。
通話ボタンを押すと、すぐに彦馬が出た。
「全部片付いたんで、引き上げますわ」
「承知いたした。毎度申し訳ない」
電話越しでも頭を下げている気配を感じる。
「いいのいいの。私が一番ヒマなんだし。いいストレス発散になってるよ」
「そう云って頂けると有り難い」
じゃあ可愛い息子が待ってるから、と通話を切り、ショドウフォンを仕舞った。
血祭ドウコクを不完全な形で封印してから約三年。いつかは解ける封印だが、今のところはよく効いている。
以前は雨後の竹の子みたいに湧いて出ていたナナシが、今はごく稀に現れる程度になっていた。アヤカシもあれ以来出てこない。それでも現れたナナシは殲滅するのが一番なので、一番フットワークの軽い谷蔵人がその任を請け負っていた。
しかしそれは本来なら志葉家当主の役目である。だが、志葉家17代目当主は(未完成な)封印の文字を使った後に死んだ。18代目はまだ幼く、一人前の侍として戦えない。だから彼が代わりを務めていた。
ナナシが出れば、志葉の屋敷にいる日下部彦馬から連絡が入る。蔵人は可能なら駆けつける。とは云っても、今まで不可能だったことはない。男手ひとつで育てている幼い息子がいるが、そちらもご近所の協力もあり、何とかなっている。
今後数年はこのような生活が続くのだろうと、蔵人は思っていた。
「18代目の初陣…ですか?」
前回の戦闘から半年後。彦馬から掛ってきた電話に、蔵人は怪訝な声をあげた。
「そうです。殿もそろそろ実践としてナナシ連中と戦い、場数を踏まれた方が良いと判断いたしましてな」
「あの……早すぎません?」
差し出がましいとは思いながらもそう尋ねると、彦馬は重苦しい声で答えた。
「いつ何時血祭ドウコクの封印が解けるか判りませんからな。殿には外道衆との戦いに慣れてもらわねばなりません」
「はあ…」
まあそーですね、と曖昧に濁した。
次にナナシが出た時は、殿も駆けつけるからよろしく頼む、と残して、彦馬は通話を切った。
18代目が戦うって。
ショドウフォンを畳み、それを手にしたまま息子を見た。テレビゲームに夢中になっていて、今の会話を全く聞いていなかったようだ。まだランドセルが大きすぎる息子の、その小さな背中を見て、蔵人は複雑な気持ちになった。
その日は意外に早くやってきた。
いつものように連絡を受け、場所以外は一言一句同じ言葉を聞き、最後に今までなかった言葉が加えられた。
「殿もご出陣なさるので、よろしくお願いします」
どうよろしくしたものか、と首を傾げながら現場に急行した。
ナナシ連中が河原で暴れていた。釣りをしていたらしい人たちを襲っている。ひいふう…と数えると、ざっと15体。多い。盆でもないのに、と顔を顰めた。
河沿いに桜がずっと植えられているが、もう半分以上葉桜になっていて、花は散っていくばかりだった。もう少し前だったら花見客が大勢いて助けるのに大変だったろうな、今日は天気もめちゃくちゃいいしな、とたんぽぽがそこかしこに咲いている土手を駆け下りながら蔵人は思った。
蔵人はシンケンマルを振り回し、襲われていた人たちを助けていく。戦いながら逃げるよう指示しつつ、別のことを気にしていた。
18代目の到着を待たなくて良かったかな?
まあでも仕方ない。人が襲われているのをのん気に見学しているわけにもいくまい。そう思いながら、ナナシの太刀を受け止めたその時。
ドンッ。
聞き慣れた太鼓の音。続けざまに太鼓が鳴り響き、花吹雪の中、白い幟と陣幕を持った黒子がさささっと走る。
蔵人もナナシ連中も動きを止めた。土手の上に目が引き寄せられる。
幟と陣幕には、志葉家の家紋。
蔵人は一瞬胸が締め付けられた。不覚にも泣くかと思った。だが、その前に陣幕が動いた。
左から右へ開かれた幕の後ろ。一際大きな桜の木の横に、一人の少年が立っていた。逆光で顔はよく見えないが、推定10歳前後。
「………え?」
ぼかんと口を開けた蔵人から、そう漏れた。
風に乱れ散る桜の花びらを全く気にすることなく、少年はすうと息を吸い込んだ。
「そこまでだ、外道衆!」
腹から出した声はまだ幼さが残る。しかし己の役目を把握し、覚悟を決めたからこそ出せる凛とした声だった。
「一筆奏上! はっ!」
少年はショドウフォンで「火」の文字を書き、変身をした。赤いスーツに身を包まれる。
視界に映ったその景色を見て、思わず「狙ったのか?」と蔵人は呟いた。少年のはるか頭上を見やる。そして少年を見る。更に少年の足元に視線を移す。一瞬振り返る。
ナナシが出る日時や場所はこちらではどうにも予測できない。なのに。なんて凄い偶然だ。
ナナシが出る日時や場所はこちらではどうにも予測できない。なのに。なんて凄い偶然だ。
「シンケンレッド、志葉丈瑠」
まるで家臣を従えているかのような――いや、見守られているかのような少年の名乗りの間に、蔵人は彼に走り寄った。志葉丈瑠と名乗った少年は蔵人よりずっと小さかったが、シンケンレッドに違いなかった。再び胸が締め付けられる。
「谷蔵人か?」
ぼうっと見ていたので、声をかけられ慌てた。「あ、ああ」
「変身しないのか?」
問われて思わず自分の手を見た。無骨な手がむき出しだ。
ナナシの殲滅に借り出されても、蔵人は一度も変身していなかった。ショドウフォンは持たされているので、出来なかったわけではない。ただ、どうしても変身したくなかっただけだ。仕える殿もなく、たった一人で戦う今、変身することに何の意味があるのだろうか。自分はもう、シンケングリーンではない。幸い、ナナシ程度なら変身しなくとも撃滅できる。
「私は大丈夫」
にっと笑ってそう云うと、丈瑠は何か感じたのか、ただ頷いただけだった。そしてナナシを見やる。
「これがナナシか……」
初めて見たのかな、と思いながら丈瑠を見ると、シンケンマルを持つ手が僅かに震えている。緊張しているのか武者震いか。
「今日はちょっと数が多いけど、二人いれば全然問題なし。どっちが多く倒したか、競争しようか?」
負けないよ、と軽く云うと、少年は笑ったようだった。
「その勝負、乗った。――参る!」
丈瑠はナナシに向かって土手を駆け下りて行った。二歩遅れて蔵人も後に続く。
よろしくされた手前、蔵人は戦いながらたまに視線を丈瑠に走らせていた。場合によってはフォローしないと、と思っていたが、なかなかいい動きをしている。まだ動きが大きく無駄があるが、太刀筋は悪くない。これからは実戦を積んで、強くなっていくだろう。
6体まで数えた所で一息ついた。あとは丈瑠を囲んでいる3体だけだ。先程丈瑠が駆けつける前に蔵人が2体倒してたから、丈瑠は4体倒した計算になる。
助太刀せずに、そのまま傍観することにした。
丈瑠は集中し、3体のナナシの動く気配を伺っていた。と、背後にいたナナシが斬りかかる。それを振り向き様受け、押し返す。再び振り向き、刀を振り下ろされる前にナナシの腰の辺りから薙ぎ払った。だが、深くは切れなかったらしい、すぐに体勢を立て直したナナシが突っ込んでくる。それを往なし、袈裟懸けに斬る。その瞬間を狙って斬り込んできたナナシの太刀を頭を低くして躱し、二~三度刃を交えた。振り下ろされたナナシの刀を上にはじき、がら空きになった腹を蹴る。よろけたナナシの懐に踏み込み、横なぎに一閃した。
蔵人はいつでも加勢に行けるような状態で、丈瑠の戦いぶりを見ていた。大きさは違えど同じ格好をしているのに、17代目と姿が全く重ならない。何故なのか。
勿論普通なら絶対に重なるものだなどとは主張はしない。だが、どこか髣髴させるような所が微塵もない。同じレッドの姿をしているのに。
蔵人が注視していることに気付く余裕もない丈瑠は、くるりと前転することで、背後からの太刀を避けた。立ち上がると同時に下から担ぎ上げるようにして切り上げ、間髪入れずに振り下ろした。
これでナナシは全滅。丈瑠ははあ、と肩で大きく息をついた。
「そうか…」
天啓というほど大層なものではないが、ようやくそれに思い至った蔵人はぽんと手を叩いた。
「養子だ。17代目の養子なのか」
その呟きは丈瑠の耳に届いた。
「違う」変身を解きながらの返答だったが、表情は判らない。「養子じゃない」
「え―――」
では一体――?
尋ねようとした時、「殿――――!!」と大声で呼びながら、彦馬が駆け寄ってきた。
「見事な初陣でした、殿!」
「ああ」
丈瑠は重い荷物を降ろしたような、ホッとした表情を見せた。
「数さえ多くなければ、何とかなりそうだ」
これからは実戦で鍛えていくのが一番のようですな、と丈瑠に笑ってから、彦馬は蔵人の方を向き、頭を下げた。
「谷殿。ありがとうございました」
「ああ、うん……」
別のことに気をとられて、返事が疎かになった。が、彦馬は気付かなかったのか、気にすることなく再び丈瑠に声をかけた。
「殿。お疲れでしょう。屋敷に戻りましょう」
「そうだな」
さすがに顔に疲労を見せている丈瑠は素直に頷いた。
歩き出した丈瑠の後に、では、と蔵人に頭を下げた彦馬が続く。蔵人は丈瑠の姿をじっと見ていた。丈瑠が振り返る。見てたのに気付かれたか、と思ったがそうではなかった。
「俺は7体倒した」
ほんの少し誇らしげだった。蔵人は笑った。
「ああ。君の勝ちだよ」
丈瑠も口元を少し緩めた。そして再び歩き出す。
彦馬が何か話しかけ、丈瑠が答えている。今の会話の意味を問うているのかもしれない。
蔵人は二人の背中を見送りながら、先程の丈瑠の言葉を思い返していた。
17代目が亡くなった時、彼の方の初めての子供はまだ内室の腹の中だった。男か女か知らなかったが、その子が18代目になるのだと思っていた。
だから、先日18代目の初陣と聞いて驚いたのだ。まだ三歳くらいの子供に戦わせるのかと。
しかし、駆けつけたのは少年だった。そして「志葉」を名乗った。
だから蔵人は養子だと思ったのだ。17代目の隠し子だか志葉の遠縁だかは判らないが、とにかくどこかから志葉の血筋の者を引っ張ってきたのだ、と。
養子にしなければ戦うことができない。侍は主君である「志葉」と家臣の「池波」「白石」「谷」「花織」だけで、それ以外は、分家ですら侍ではない。他から侍をと思ったら、戦えるようにするため、養子にするしかないのだ。
しかし、丈瑠は養子ではないと云った。
どういうことだ?
黒子も撤収し、一人残った蔵人は首を捻る。
「志葉」と名乗り、レッドに変身する。だが、養子ではない。
まさか、18代目のニセモノ――影武者か!?
冗談半分からの閃きに、ぶるりと体が震えた。
導き出した結論に衝撃を受け、手を口元にやった。
それなら納得がいく、と蔵人は眉根を寄せた。
真の18代目はやはりあの時内室のお腹にいた子なのだ。しかし戦えるようになるまでまだまだ時間がかかる。しかも志葉の最後の生き残り(遠縁はいるかもしれないが)。その子が死ねば、こちらは大きな痛手程度では済まない。前線に立って戦っていれば、先の当主のように討ち死にする可能性もある。志葉を絶やすことだけは何とか避けたい。そう考えたお偉いさんたちが影武者を立てた――。
それが、あの丈瑠、か。
先程共に戦った少年を思い浮かべる。彼はシンケンレッドとして、外道衆に立ち向かう覚悟を決めていたようだった。
あ、そうか。蔵人は思わず手をぽんと叩いていた。
「だから、世話役は日下部なのか……」
最初に彦馬から連絡を貰った時、不思議に思ったのだ。何故そんなに地位の高くない日下部が、18代目の後見人になっているのか、と。真の18代目が別にいるならそれも頷ける。
「あちゃあ…」
蔵人は心底困って、天を仰ぎ、手で目を覆い隠した。
知らない方が良かったことに気づいてしまった。
「やれやれ。参ったな」
頭をがしがしと掻くと、蔵人はため息をひとつついた。
数日後、彦馬から電話が入った。以後は丈瑠が出陣するから解任だということだったが、蔵人が異を唱えた。丈瑠はまだ義務教育課程の途中なのだから、授業中や学校行事の際にナナシが現れたら、自分が駆けつける、そう云って譲らなかった。彦馬は少し困惑したが、あっさりそれを飲んだ。彦馬も丈瑠の学校生活は出来るだけきちんと送らせてやりたかったのだろう。志葉の当主は、学校よりも己の使命。先代からそう聞いていた蔵人は、そのあっさりさが影武者説を補強し、ますます頭を抱えた。
「オヤジー。電話終わった?」
蔵人が受話器を置いたのを逃さず、息子の千明が駆け寄ってきた。学校で覚えたらしい、最近蔵人のことを「オヤジ」と呼ぶようになった。
「ああ、終わったよ」
「じゃあオヤツ食べよーぜ。オレ、すげー腹減ったよ」
千明は手にしていた竹刀を肩に担ぎ、情けない声をあげた。
千明は次のシンケングリーンだ。蔵人がその為に必要なことを教え込んでいる。
だが。
今18代目と名乗る人物が影武者と知ってしまい、迷いが生じていた。
千明が丈瑠の下で戦うことになった時、影武者だと知らされるのだろうか、と考えると、毎回、「教えられないだろう」という結論に辿り着く。敵を欺くにはまず味方から。どこから漏れるか判らない。秘密を知る人間は少ない方がいい。
そうなると、千明たちは本当は当主ではない人間を命を賭して守る、ということになる。
親として、先代シンケングリーンとして、こんなにも複雑な気持ちになることが他にあるだろうか。だからと云って、丈瑠が影武者だと教えるわけにはいかない。絶対に。
真の18代目がいつか千明たちの前に現れるのかどうかは判らない。ただ、その時の為に本当は、「『殿』の家臣」という己の立場を体に染み込ませていた方が切り替えには良い、というのは馬鹿でも判る。
しかし。
それでいいのか?
本当にその方がいいのか?
蔵人は自問を繰り返していた。
「なー、オヤジー?」
蔵人のシャツの裾を掴んで見上げてくる息子の顔を見た。
千明は、とにかく明るい子にしたい。
亡き妻がそう云って微笑んだのを思い出す。「シンケンジャーって、大変でしょ。だからこそ、ね?」
ああ、そうだよね。蔵人は肩の力を抜いた。千明は志葉の家臣である前に千明なんだ。私たちの一人息子なんだよね。
「なーってば」
裾を引っ張る息子に、蔵人はにかっと笑った。
「よしっ、じゃあ今日はパンケーキ食いに行くか!」
「やったあ!」
千明は飛び上がって喜ぶ。それを蔵人は微笑ましく見た。
うん、よし、決めた。千明には、押し付けるようなことはしない。
蔵人は早くも玄関で靴を履いている千明の後を追った。
とりあえず終
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殿の初陣を書いてみたいなあと思ってたのだが、予想を遥かに下回るヘボっぷり。殿に全力で土下座。
父が云った「凄い偶然」がよく判んないようという方に。っていうか、判りにくいと思う。相方のアドバイスで少し加筆したけど、まだ。
① 周りに何があったか
② それはどんな色?
漫画だったり挿絵があったりしたら判りやすいんだろうけどな。文章だとね。しかも詰め込みすぎの一行がある…。
テレビだと陣幕と人間一人だけだったので、もっと引いて、色々背景に取り込んでみたかったのさ。
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